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愛する人に一秒でも早く会いたい。地平線の彼方に誰よりも早くたどり着きたい。かつての人類にとって、生物の走力を超える「スピード」は魔法であり夢でもあった。その未知の価値への探究心は、20世紀の技術革新にトラクションを与え、やがて人は魔法のヴィークルと移動の自由を手に入れる。

2000年にドイツ・インゴルシュタットに開館した「Audi Museum Mobile」の館内の壁には、「Is speed dangerous ?」という言葉が印字されていた。Audiの前身のひとつ、アウトウニオンはスピードの追求にも力を注いでいた。1937年の速度記録レースで、ベルント・ローゼマイヤーは「アウトウニオン タイプCストリームライン」に乗り、公道を400km/h以上で走行した人類史初のドライバーとなる。往時のレコードブレイカーは「Audi Museum Mobile」で復元された。その16気筒のエンジン音は人々に何を想起させたのだろうか。


Audi Museum Mobile

未曾有の最速記録樹立から約80年後、Audiは、マンハッタンの公道で開催された「フォーミュラE選手権2017/2018」最終戦で、トップとの33ポイント差を逆転しタイトルを獲得した。フォーミュラカーが駆け抜けるニューヨークでは、エンジン音ではなく、タイヤの走行音とインバーターの高周波音が微かに大気を震わせていた。これが未来のレースの響きなのか。

AudiはこうしたレースでEVの最先端技術を鍛え抜き、リンクを離れ市販車にその技術を惜しみなくフィードバックする。18年にサンフランシスコでバッテリー・エレクトリック・ビークル(BEV)のSUVモデル「Audi e-tron」を世界初公開。「e-tron」は、バッテリーと電気モーターを使うAudiモデルに与えられるシリーズ名だ。さらに同年11月のLAモーターショーでポルシェとの共同開発となるBEV「Audi e-tron GT concept」を発表した。

 



e-tron Sportback


Audi e-tron GT concept

実はAudiは、80年代後半から電気モーター駆動の研究を行ってきた歴史があり、「Audi Museum Mobile」には、ドイツ初の量産ハイブリッド車「Audi DUO Ⅲ」が展示されている。11年のフランクフルトショーでは、小型BEVに自動運転システムを搭載した「Audi A2 concept」を発表し、ブランドステートメントの「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」を体現してみせた。20世紀の「スピード」の価値に、「持続可能なモビリティ」という未来の価値を重ねる取り組み。「e-tron」は昨今の世界的なEV化ムーブのフォロワーではなく、「Vorsprung durch Technik」の挑戦と蓄積、Audiのパーパスが生み出した必然のプロダクツと言っていい。

カーボンニュートラルの挑戦



Audiは「持続可能なモビリティ」を最高の形で提供するため、25年までに20種類以上のBEVを開発し、電動化モデルの世界販売台数の4割をBEVとする目標を掲げた。目的はCO2排出量の削減だ。同社は製品のライフサイクル全体を通して、25年までにCO2排出量を30%削減(対2015年比)する目標を設定している。COP21で採択されたパリ協定の「2℃目標(産業革命以前と比較し気温上昇を2°C未満に抑えることを目標とする)」に向け、企業が自社のエネルギー消費量やCO2排出量をどれだけ削減するか。そこで設定された目標はSBT(Science Based Targets)と呼ばれる。14年、Audiは国際規格に従い、自社のCO2排出量を決めた最初のプレミアムカーメーカーでもある。

パリ協定はこの「2℃目標」が注目されがちだが、注目すべきは、炭素の排出・吸収をバランスさせる脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀後半に実現する野心的な取り決めだった。Audiもまた、25年までに車両生産のカーボンニュートラルを達成する目標に向けて走り出している。

「e-tron」を生産するベルギー・ブリュッセル工場と、ハンガリーのジェール工場では既にカーボンニュートラルを実現しており、同社の脱炭素工場のロールモデルとなった。これも「Vorsprung durch Technik」の体現と言えるだろう。いずれの生産拠点も、屋根面に大規模太陽光発電システムを搭載し、グリーン電力への転換、再生可能エネルギーによる熱供給、カーボンクレジット購入でカーボンニュートラルを達成している。




カーボンニュートラルを実現した「e-tron」を生産するベルギー・ブリュッセル工場(上2枚)と、ハンガリーのジェール工場(下)

限られた資源への責任


15年までに電動化モデルがAudi全車種の約4割になると、同社ブランドだけで年間約100万台の大小バッテリー搭載モデルが世界を走行することになる。バッテリーの原料となるレアメタルの採掘は、環境破壊や児童労働の問題が懸念されているほか、バッテリー製造過程の環境負荷も小さくない。持続可能なバッテリー・バリュー・チェーンの実現は「持続可能なモビリティ」の大きな課題だ。Audiは世界経済フォーラム(WEF)のイニシアチブGlobal Battery Allianceに参加し、その課題解決に取り組んでいる。

「e-tron」のバッテリーハウジングなどに使われるアルミニウムは、精錬時に大量のエネルギーを消費する。そのためAudiは、アルミ端材などをサプライヤーに戻し、リサイクルを推進する「アルミニウム・クローズド・ループ・プロジェクト」にも取り組んでいる。そのアクションが評価され、自動車メーカーとして初めてAluminum Stewardship Initiative(ASI)のパフォーマンス・スタンダード認証を取得した。ASIは、アルミニウム関連産業全体のESGパフォーマンス改善とバリューチェーンにおけるサステナビリティ向上を目的とする国際的イニシアチブだ。

また、使用済みバッテリーの循環利用をリサイクル企業Umicoreとともに研究し、再利用リチウムイオン電池をインゴルシュタット工場のフォークリフトや牽引車の動力として試験的に活用している。

原料発掘の課題解決、ハウジング素材のリサイクル、リチウムイオン電池再利用と、バッテリー部品ひとつにもAudiは、サステナビリティに貢献する取り組みを、可能な限り採用していることがわかる。いずれも「持続可能なモビリティ」実現のための重要なアクションなのだ。

資源は製品として形になるものだけではない。車両生産では、部品加工から完成車両の漏水実験までほぼ全工程で陸水を使用し、大量の廃水が生成される。Audiはこの廃水をゼロにすることにも挑んでいる。「Q5」を製造するメキシコのサンホセチアパス工場では、前処理した工場排水をプラントから出た他の廃水とともに生物学的廃水処理などを施し、高品質の再生水を給水システムに戻し直接再利用している。これにより、工場に必要な水量の約25%相当の年間約10万㎥の水を節約し、長期的には地下水利用の削減も視野に入れている。

 

「Q5」を製造するメキシコのサンホセチアパス工場のサスティナブルな取り組み

こうしたサステナビリティへの真摯な取り組みは、Audiの企業価値を高めるだけでなく、プロダクツの価値を向上し、すべてのステークホルダーが持続可能な社会や環境の実現に貢献する仕組みを構築した。プレミアムという概念は、製品の高品質や高性能だけに宿るのではない。

「空と大地が結ばれる彼方まで 私も行こう

この道駆けぬけ 夜明けを探しに」*

20世紀の速度と安全な移動の価値と、21世紀の持続可能なモビリティの価値。それらを追究し続けた歴史と「Vorsprung durch Technik」の理念の結晶が、日本の道を走り始めている。Audi「e-tron Sportback」は9月に日本市場に導入された。

*及川眠子作詞「ひとかけら」柴咲コウ より

Promoted by Audi│text by Kazuo Hashiba│edit by Akio Takashiro

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