EVバッテリーで世界最先端を走る米「クアンタムスケープ」の強み

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ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やビル・ゲイツらが支援するバッテリー新興企業の「クアンタムスケープ(QuantumScape)」は12月8日、同社のEV(電気自動車)用バッテリーの性能が、現在市場に出回っているほとんどの競合プロダクトを上回る性能を誇ることを示すパフォーマンスデータを開示した。

同社のソリッドステートリチウムイオン電池(全固体電池)は、わずか15分で容量の約80%の充電が可能で、通常の走行条件であれば12年間の耐久性能を持つという。サンノゼに本拠を置くクアンタムスケープのバッテリーはさらに、氷点下の気温でも十分に動作可能だとされている。

従来のEVのリチウムイオン電池は、気温が下がるとバッテリーの電解液の働きが悪くなり、充電に時間がかかり、氷点下では凍結するケースもある。さらに、クラッシュ時に火災につながる可燃性物質が含む場合もあった。

クアンタムスケープは先月、SPAC(特別買収目的会社)との合併を通じて上場を果たしたが、上場前にフォルクスワーゲンなどから3億8000万ドル(約392億円)を調達していた。同社の出資元には、ビル・ゲイツの財団や、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ、コースラベンチャーズ、KPCBなども名を連ねていた。

同社の取締役会にはVWの幹部も参加している。VWはクアンタムスケープと合弁会社を設立し、そこで製造するバッテリーを2025年に発売する車両に搭載する予定だ。クアンタムスケープは当面の間、VWに競争上の優位性を与えるかもしれないが、テスラの元CTOのJB Straubelや、元CFOのBrad Bussも同社の取締役を務めている。

クアンタムスケープCEOのJagdeep Singhは、現状では世界の新車の売上金額の3%以下でしかないEVのバッテリー市場が、いつか巨大な規模に成長すると見込んでいる。ブルームバーグのNew Energy Financeは、2040年までにEVとプラグインハイブリッドが世界の一般車売上の約35%を占めるまでに成長すると予測している。

一方で、リチウムイオン電池の開発者で2019年のノーベル化学賞受賞者のマイケル・スタンリー・ウィッティンガムは、「全固体電池を作る上での最大の課題は、低温でも300マイル(約482キロ)以上の航続距離を維持しながら、高エネルギー密度や急速充電、長寿命サイクルという要件を同時に満たすことだ」と述べている。

「今回開示されたデータは、クアンタムスケープのバッテリーがこれらの要件を完全に満たすことを示している」とウィッティンガムは、12月8日の声明で述べた。

しかし、この市場の競争は今後も熾烈なものになりそうだ。全ての自動車メーカーらが、バッテリーパックの密度を高め、小型化に向けて先を争っている。EVバッテリー市場では、韓国のLG Chemやサムスン、中国のBYDやCATL、日本のパナソニックらも激しい戦いを繰り広げている。

編集=上田裕資

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