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一方、世の中には、諦めずに目標を追い続けることが良しとされる風潮から逃れられず、何かを「やめる」ことに臆病になっている人も多い。この点について、小橋さんはこう考える。

「職業や肩書きに自分を当てはめるからそう思うのかもしれないけど、自分の人生をもっと大きなストーリーとして見たときに、自分自身が何をしていきたいかがわかると、別に他者に対して示す職業とかは問題ではないですよね。

アナログの時代は生まれてから死ぬまで価値観が変わらなかったかもしれないけど、いまの時代は数年後に自分の職業すらなくなってるかもしれない。しかも道中に、いろんな職業が生まれてくるじゃないですか。『目標を持つな』とは言わないけど、いまの時代って目標自体が誰かの背中を追ってしまってる可能性があって。誰かの背中に感化されちゃったことによって、行き先にガチガチに縛られて、道中にある大切なものを見逃してしまう」

やめたい
今年7月にオープンしたノンアルコールバー「0%」にて

その目標は、本当に自分がなりたい姿なのだろうか。誰かの成功体験を再現しようと、自分だけの体験を味わうことを疎かにしてはいないだろうか。

「あくまで目標はきっかけでいいと思うんですよ。何者かになりたいと思う道中で世界を知るわけでしょ。その中で知らなかったことに出会い、人と出会い、そこで転換していっていいはずで、目標に縛られて、自分の目の前で起きてることを見逃してしまってはもったいないと思う。だから旅を楽しむ、ということは決めながら、行き先は変わってもいいんじゃないの、って」

「怖がらなくていいよ」と過去の自分に伝えたい


最後に「俳優をやめた当時の自分に声をかけるとしたら?」と質問すると、彼はこう答えた。

「怖がらなくていいよ、と。人間ってずっと変化してきてるじゃないですか、赤ちゃんから大人になるまでに言葉も覚えるし、いろんなことを学ぶし。なのに大人になると、なぜか多くの人は安心安全で変わらないことを選ぼうとする。一度手に入ったものはずっと持ってたいと思うし、お金や安定を求めるし。でも人間は変化していくものだから、変化を恐れないでほしい。変化にこそ、意味があると伝えたい」

そして自身の過去を振り返って、言った。

「昔はむちゃくちゃ変化を恐れていたけど、変化していった先にこういう結果になった、という展開をたくさん見てるから、その積み重ねで自分の中で変化を楽しめるようになってきました」

13年前、「これは本当に自分の人生なのか?」と疑問を抱き、やめる決断をした小橋さん。大きな変化による恐れや葛藤もあったという。しかし、自分の心に嘘をつかず、「自分だけの体験」を大切にしてきたからこそ、最近気づいたことがある。

「目の前のあらゆることをニュートラルに受け入れ、楽しめる状態こそが、本当の自分であり人生を形作っていくのだ」と。

「やめる」から始まる本当の人生も、あるのかもしれない。

小橋賢児
俳優からクリエイティブディレクターへ。「やめる」一歩は思いもよらない道へと彼を運んだ

文=河村優 編集=督あかり 写真=Christian Tartarello

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