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こうして小橋さんは約20年間続けた芸能活動をやめ、世界各地を放浪する旅に出た。

ゼロになって、目の前に向き合うしかなかった


帰国後、数々の試みを行うも、俳優に任せられるの? と過去のイメージが足かせとなり、仕事がなかった。うつ状態になり、肝臓も悪くなり、どん底だった。幸いにも周囲の助言をうけて病院へ行き、海の近い場所に引っ越して環境を変えたことで、一歩ずつ回復していった。

大きな転機となったのは、自身の30歳のバースデーパーティーをひょんなことから自らプロデュースしたことだった。お台場のホテルのプールを勢いで借り、周りの人たちをもてなすイベントにした。これが原型となり次々にイベントを手がけていくと、次第にノウハウを得て、人が人を呼んだ。自分のバースデーをプロデュースするという「小さな目標」に向かって進むしかなかったところから、気がつけば会場の外には行列ができ、企業からオファーが舞い込むようになっていた。

「ゼロになった時に、いまさら自分の未来なんて考えなくなった。目指すものがなくなったからこそ、目の前に向き合えたんです。そうしてやっていたらどんどん大きくなって、出会いが出会いを呼んで、一歩一歩進みました。すると、自分でもまだ見ぬ未来が、向こうからやってくるんです」

小橋賢児
決して華麗とはいえない転身──。そこから見えたものとは。

そして今年、ノンアルコールバーの「0%」とリトリートラウンジ「UNBORN」を都内にオープン。どちらも「心をゼロにする」という共通のコンセプトがある。

「0%」で提供されるのは、五感を刺激することを目的としたノンアルコールカクテルだ。味だけでなく、視覚や聴覚を刺激して楽しむ仕掛けが凝らされており、「飲まなくても酔える」新感覚の体験を提供している。「UNBORN」には、光と音が遮断された空間で浮遊することで深い瞑想状態を体感できる「アイソレーションタンク」や、メディテーションを通じて胎児に戻り、産まれたての赤ちゃんが全身で世界を感じるように、五感でアートを鑑賞する「クリエイティブラウンジ」を提供。都会にいながら自らの感覚を研ぎ澄まし、リフレッシュすることができる唯一無二の空間だ。

小橋さん自身にとって、自分の心と向き合う時間である瞑想や旅から着想を得て、どちらもコロナ前からオープンを計画していたという。心や体に負担をかけずにできる楽しみ方は、時流ともマッチし、人々に受け入れられた。

目標はきっかけでいい


俳優からクリエイティブディレクターへ、大胆な転身のように思えるが、小橋さんはあくまで「他者に対して示す職業が変化しているだけ」だという。というのも、彼の活動に一貫する「気づきのきっかけをつくりたい」という思いは、その表現が俳優としての活動であるにしろ、イベントや店舗などのディレクションであるにしろ、本質的には変わらない。

文=河村優 編集=督あかり 写真=Christian Tartarello

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