10年前「変人」と言われた農家が、いまメディアで取り上げられる理由

ハウス内で作業をする福山。妄想する時間は至福の時間だそうだ photo by 中山雄太

「変人」。10年前、宮崎県新富町という人口約1万7000人の町でピーマン農家をしている福山望がいわれてきた言葉だ。

その頃からいち早く農業にITを導入し、2013年にはビニールハウスの温度を空気層で制御する特許を取得、2017年には作物のタイムラプス映像をユーチューブにあげていた。同質化しやすい農業コミュニティの中で福山は異質な存在だった。

しかし今、稼げるアグリテック(農業+テクノロジーの造語)の先駆者としてNHKで特集番組が組まれるほどの専門家となって注目を浴びている。

福山はなぜ「変人」と揶揄されながらも、己の信じる道を貫き通せたのか。その秘訣は、同じく農家だった父からの教えに隠されていた。鍬ではなくパソコンを息子に与えた父が大切にしてきたのは、思い込みを捨て、次に来る新しい潮流を見極めこと。そして、好奇心をもって行動し続けることだった。

農業が一番儲かる


福山が活動をするのは宮崎県新富町。人口約1万7000人の小さな町だ。基幹産業は施設園芸を中心にした農業で、福山は主にピーマン、きゅうりの栽培を行っている。

「農業が一番儲かる」。これが福山の農家の父親の口癖だった。「変人」を育てた人はさらに「変人」だった。

福山の父は地元でも有数のピーマン農家。昭和60年頃にビニールハウスが手動開閉しかなかった時代に、自動開閉を考えた。さらに仲間をつくり、試行錯誤しながらビニールハウス内の温度管理などを行っていた。何もしなくても農家が儲かっていた時代に、福山の父は先行投資を怠らなかった。それは「農業が一番儲かる」という言葉が表す通り、結果へとつながっていく。

福山の父が行動を起こせたのは視察に訪れる多様な専門家から、翳りゆく農業の未来を聞いていたからだ。また、現状維持で満足する一部の農家らをみて危機感を募らせていた背景もある。

福山は、そんな危機感を感じながらも、楽しそうに仕事をする父の背中をみて同じように農業の道を進んだ。
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文=齋藤潤一、写真= 中山雄太

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