「仕事にしがみつく」のをやめた。女優いとうまい子が持つ研究者の顔

女優として活動する傍ら、早稲田大学の博士課程に在籍し、研究者としての道を歩んでいる。


その後、大学院での本格的な研究を始め、現在は「予防」の観点を取り入れたロボット開発のプロジェクトを、AIベンチャーのエクサウィザーズと共同で行うまでに発展させた。

「もしゼミ選びのときに、同級生のアドバイスを聞き入れず、頑なに予防医学だけにこだわっていたら、今のような状況には絶対なっていなかったと思います」

大学入学時の目標であった「予防医学」を学ぶ計画を一度はやめることで、逆に理想に近づくことができたいとうさん。人生を好転させる「やめる」判断ができた背景には、実は芸能界で味わった苦い経験への反省があった。


芸能界に入ったばかりの頃は「自分の思いがとても強かった」と語るいとうまい子さん

アイドル時代、事務所をやめた「過去」


「高校を卒業して芸能界に入ったばかりの頃は、とても尖っていたんですよね。自分の思いがとても強くて、『芸能界には流されたくない』というのが強かったんです。だから、人からアドバイスを受けても、自分の意志を曲げないことが多かった。でも、後から振り返ってみると、それってあんまり良くなかったなと思って」

デビュー5年目の23歳の頃に、いとうさんは所属していた芸能事務所をやめる決断をしたという。きっかけは、撮影でヌードにさせられることに耐えられなかったからだった。当時、いとうさんは事務所との話し合いをあまりせずに、一方的にやめてしまったという。

事務所という「傘」を失ったいとうさんは、今までとは一転、電話口でマネージャーのふりをして、自ら仕事の交渉をする日々に。オファーがあって現場にいっても、監督に口を聞いてもらえないことも多々あった。苦境に立たされたことで、仕事にしがみつくようになっていたいとうさんは、20代後半にはいつのまにか、心の余裕がなくなっていた。

「事務所を辞めてからは、人に好かれなきゃという焦りが強くなって、髪を伸ばしてパーマをかけてみたり、化粧を濃くしてみたり、とにかく自分らしさを失っていました。1人で思い悩んで、人生の迷子になってしまっていたんです」

そんな状況に救いをもたらす転機が訪れたのは、30歳のとき。兄から預かるかたちで育て始めたゴールデンレトリバーが、いとうさんが立ち直るための「メッセージ」を届けてくれたという。
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文=渡邊雄介 編集=督あかり 写真=小野田尚武

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