ビジネス

2020.12.30

オンラインだけが未来ではない。「ターゲット」のリテール再発明


店員に対する敬意と顧客の需要の高まりが、賃金の引き上げにつながったのは間違いない。ターゲットCEOのブライアン・コーネルは言う。

「生活に必要不可欠なビジネスを営む企業として、米国人の生活を支えていくのであれば、まず従業員の生活を支えなければなりません」
 
店舗のデジタル化が進み仕事が複雑になると、人材を確保して定着させるために給料や手当を引き上げる必要がある。資産運用会社サンフォード・C・バーンスタインの小売アナリスト、ブランドン・フレッチャーは、「ターゲットの従業員は顧客と同じくらい『会社から大事にされている』と感じているはず」と断言する。

ただ、コーネルがCEOに起用された14年当時、ターゲットに良いイメージをもつ人はほとんどいなかった。前年に起きた4000万人もの顧客のクレジットカード情報流出事件で、評判は地に落ちていた。同じころ、カナダで開店した124店舗は業績が振るわず、何億ドルもの損失を計上。高級感ある製品が人気を呼び、フランス語読みの「タージェ(Tarjay)」という洒落た愛称で親しまれてきたターゲットだが、「古ぼけた店舗の古臭いブランド」というイメージがついてしまった。
 
コーネルはすぐに動いた。カナダ事業から撤退し、薬局事業も売却して、米国内の事業の立て直しに注力した。そして、17年に70億ドルの投資計画を打ち出し、1800超の店舗の改装、オンラインでの顧客体験の創造、店舗の倉庫としての活用などの改革を断行した。さらに、衣料PBのグッドフェローやユニバーサル・スレッドをはじめ、新たな自社ブランドを相次いで立ち上げた。

この戦略に対して前述のアナリスト、フレッチャーはこう分析する。「ターゲットの存在意義は、ウォルマートのように低品質な商品を安く売ることではない。コーネルは本当に良質な商品を提供することで、以前のように人々が『タージェ』と呼ぶにふさわしい店に戻そうとしたのだ」。
 
数年前、誰もが実店舗の時代は終わったと言っていた。それでも、ターゲットは逆の道を選んだ。それは顧客が教えてくれたことだ。実際、コロナ禍でも小売売上高全体の約85%を実店舗が占めている。
 
パンデミック下で獲得した優位性を維持するには、豊かな顧客体験と良質な商品を販売していくことが不可欠だ。小売大手が見つけた生き残るための処方箋は効果を発揮しており、中小の小売業や他業種にとっても大いに参考になるだろう。


ターゲット◎1962年設立の大手小売業者。本拠地は米国ミネソタ州・ミネポリス。米国内に約1900の実店舗を構え、ほとんどの米国人が住む場所から10マイル(約16km)以内に設置している。従業員数は約35万人で、有色人種が50%、女性が58%、女性役員の比率は約50%。顧客からはフランス語読みの「タージェ(Tarjay)」の愛称で親しまれている。

文=スティーブン・ベルトーニ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=岡本富士子 / パラ・アルタ

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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