同様に、人々は、医療をはじめ、必要不可欠な労働者や高齢者などの脆弱な人々のために犠牲を払おうとする意志も、圧倒的な勢いで示してきました。また多くの企業は、ステークホルダー資本主義へのシフトの中、以前はリップサービスとも思われた労働者、顧客、地域社会への支援を、今は本格的に推し進めています。
より良い社会を構築する意志は明らかに存在しています。私たちは、この潮流をうまく利用して、切実に必要である「グレート・リセット」を実現しなければなりません。そのためには、思想的な押し付けで大きな政府にするという意味ではない、強くより効果的な政府が必要です。また同時に、民間セクターとのエンゲージメントも不可欠です。
「グレート・リセット」の実現に向け重要な姿勢は3つです。
ひとつ目は、より公平性のある市場を目指し、かじ取りをしていくこと。この目的のために、政府は調整(例えば、税制、規制、財政政策)を改善し、貿易の取り決めを改善した上で、「ステークホルダー経済」のための条件を整えるべきです。課税ベースが減少し、公的債務が急増している現在、政府はそのような行動を追求する強力なインセンティブを持っているのです。
さらに、政府は、より公平な結果を促進するために、長らく遅れていた改革を実施すべきです。国によっては、富裕税の変更、化石燃料補助金の廃止、知的財産権、貿易、競争を管理する新しいルールなどが含まれます。
2つ目は、社会や経済が停滞する中で、システムを変革するために新しく拡張された投資プログラムを活用すること。欧州委員会は、7500億ユーロという最近前代未聞の規模の復興基金を発表しましたが、米国、中国、日本でも同様に大規模な景気対策基金が用意されています。個人投資家や年金基金も合わせ、これは非常に大きな機会となり得ます。
これらの資金や民間企業や年金基金からの投資を、古いシステムの亀裂を埋めるために使うのではなく、長期視点で、より弾力性があり、公平で、持続可能な新しいシステムを作るために使うべきです。これは、例えば、「グリーン」な都市インフラの構築や、環境・社会・ガバナンス(ESG)指標の実績を向上させるためのインセンティブを産業界に与えることを意味します。
そして3つ目は、第四次産業革命のイノベーションを活用した上で、公共の利益、特に健康と社会的課題に取り組むことです。新型コロナウイルス感染拡大の危機の間、企業、大学、その他が力を合わせ、診断法、治療法、ワクチンの開発、検査センターの設立、感染症を追跡する仕組みの構築、遠隔医療の提供などを行ってきました。すべての分野で同様の協調的な努力がなされた場合に何が可能になるかを想像してみてください。
新型コロナウイルス感染の危機は、地球上のあらゆる場所にまで影響を及ぼしています。しかし、悲劇だけがその遺産ではありません。それどころか、パンデミックは、より健康的で、より公平で、より豊かな未来を創造するために、私たちの世界について考え、再考し、再考し、リセットするため、貴重な機会となっているのです。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載、2020年6月に初出のものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
過去記事はこちら>>