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Photo by Marco Secchi/Getty Images

イタリア・ベネチアの「モーゼ」と呼ばれる防潮門システムが提案されてから40年近くになるが、同市は今でも高潮に悩まされている。今月8日には、この“奇跡の”防潮門が機能せず、145センチの高潮が発生した。

伊紙ラ・スタンパは1992年、「モーゼがベネチアを救う」とした記事を掲載した。ニュースサイト「イル・ポスト」によると、モーゼは1995年までに完工予定だったが、2001年にはそれが2011年になり、2015年には汚職スキャンダルや建造費の高騰により2018年まで延期された。だが2019年11月に記録的な浸水被害が発生した際にも稼働に至らず、今年7月、ようやく初の稼働試験が実施された。

モーゼの名は「Modulo Sperimentale Elettromeccanico(実験的電気機械モジュール)」を短縮したもので、ベネチアの3つの潟の入り口に設置された一連の可動式水門からなる。海底に沈められた門を上げることで、高潮を防ぐ仕組みだ。構想のきっかけとなったのは、1966年に起きた194センチの歴史的高潮による大きな被害だった。

モーゼは今年、試験を経て稼働を開始し、浸水被害を防ぐことに成功してきた。ではなぜ、8日の高潮ではモーゼが作動せず、ベネチアの大部分が浸水してしまったのだろう?

水門が上がらなかった理由は、天気予報のミスにあるとされている。予想されていた潮位は120センチで、モーゼが自動で作動する潮位よりも低かった。これが145センチに修正されたときには、既に稼働のタイミングを逃していた。

ただ、ベネチアの高潮予報ではこれまでにも誤りが起きてきた。2012年には「深刻で予測不能な」高潮により同市の70%が水害に見舞われたが、当初の予報での潮位は実際よりも30センチほど低く、事前に店やレストランから備品を避難させられなかった人が相次いだ。昨年11月12日の高潮でも、不正確な予報が原因で被害が拡大。潮位は予測されていた水準を超えて上昇し続け、187センチに達した。

モーゼは現在、予想される潮位上昇が130センチ以上の場合のみ稼働するようになっているため、ベネチアが頻繁に浸水被害に見舞われる可能性はまだ残っている。ベネチアの浸水被害の頻度は上昇しており、昨年には110センチ以上の高潮が25回発生した。べネチアを守るためには、モーゼは年間でそれと同程度の回数稼働する必要がある。

水門を頻繁に長期間作動させれば、ベネチアの港は悪影響を受ける。潟の入り口が封鎖されると、貨物船が数時間にわたり入港できなくなり、配送には甚大な遅れが生じる。ベネチアの港は同市経済の27%を担っており、港の経済的利益は政治的決定に大きく影響する。

また、水門が上がるたびに、電気代や専門技師のコストとして推定30万ユーロ(約3800万円)がかかる。これがベネチアの貴重な芸術的遺産と市民を守るための「代償」ということなのだろう。同市の運命は、常に経済面での思惑に左右されている。

編集=遠藤宗生

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