そう言って笑い合う2人。取材前に担当者から聞いていた通り、情熱の赤、冷静さの青のようにイメージの分かれる両名は、霞ヶ関キャピタルの取締役・緒方秀和氏と、同取締役・岡田康嗣氏だ。
同社は2011年の設立以降、社会貢献を軸にした事業展開で急成長し、2018年にはIPOを実現。現在もその成長スピードを緩めることなく走り続けている。
社名から事業がなかなか想像できないかもしれないが、手掛けるのは、自然エネルギー事業、地域創生を目的とするアパートメントホテル事業、待機児童解消のための保育事業、そしてスタートしたばかりの脱フロン対応の物流施設開発事業などだ。
投資家目線だけでなく、社会的なテーマを持つ成長領域を見つけていくこと。高難易度の事業を作りだす霞ヶ関キャピタル、その強みはカルチャーに眠っていた。
キーワードは、「連携」と「スピード」だ。
不動産と金融のプロフェッショナルが“織り成す”、独自のビジネスモデル
さて、まずは霞ヶ関キャピタルの独自のビジネスモデルについて、簡単に説明しよう。
開発用地を調達し、商品として企画立案をする。ここまでは一般的な不動産デベロッパーと同様だ。しかし開発においては不動産開発ファンドなどへ企画提案、売却し、自身はプロジェクトマネージャー・ファンドマネージャーとして動く。また、開発後の商品についてはファンドを組成し利益運用を行う。この点が他社と一線を画する。
緒方は、このデベロッパー領域を担う投資運用本部を取りまとめる人物。住宅・オフィス・商用施設の投資ファンドビジネスにおける豊富な経験による知見を生かしながら、数々の用地開発を企画している。
左:取締役・緒方秀和 右:取締役・岡田康嗣
一方、証券会社出身の岡田は、不動産領域における投資銀行業務に長く携わった経験の持ち主。自社で開発した商品を、投資家に提案し、まとめあげるファンドマネージャー領域を担っている。
緒方のチームが企画した投資商品を、どのようにプレゼンテーションし、投資家にどうアプローチをしていくのかを考案、実行するのが岡田のチームの仕事だ。
このビジネスモデルの特筆すべき点は高いROE(自己資本利益率)を維持できること。
では、なぜ他社は真似をしないのか。
「不動産の目利きと金融知識の両方が相当高いレベルで必要なんです。リスクをつぶしにいく力とやり切る力がないと成立しません」(緒方)
それだけではない。冒頭で2人が笑いながら語っていた様に、知識と経験のあるメンバーが一気通貫で唯一無二の企画を作り出しているのだ。
緒方曰く「不動産と金融、双方の領域において多種多様な人材がいて、さらに連携が取れている会社はおそらく他に無い」という。
ぶつかり、磨き合い、そして「企画力」を高める
独自のビジネスモデルを支えるプロフェッショナルたちは、どう連携し合っているのか、と問うと「喧嘩しながら、相乗効果を出している」との答えが返ってきた。
同社のビジネスモデルには、どの段階にも投資家が存在する。常に利益を出さなくてはならないからこそ、妥協が許されない。それゆえのぶつかり合いだ。
「私が担当するデベロッパー領域はビジネスの入口。ここで商品に利益が生じていないと、開発後の提案に説得力がありません。投資する人がいるからこそ、確実に価値を生み出す商品でなくてはならない。無責任な企画はできないんです」(緒方)
自信を持って投資家に提案できる商品作りを、と考える緒方。一方で岡田は、商品価値を下げない売り方を心がける。
「良い商品を作り、確実に成果を出すことは、投資家にとっての我々の価値そのもの。価値ある商品かどうか、時に緒方のチームと意見を戦わせて厳しくジャッジしています。だからこそ、投資家に提案する際に安売りはしません」(岡田)
双方の存在がプレッシャーとなり、商品価値、仕事の質を高め合う。せめぎ合いながら双璧の両輪が動き、そこで同社は高い「企画力」を手にしていた。
高い企画力があれば、誰も手をつけないリスクの高い土地にも可能性を見出すことができる。リスクを確実につぶしていくだけのスキルが、自分達の中にあるからこそできることだ。
リスキーでもハイリターンを見込むことができる領域でこそ、同社のビジネスモデル、企画力が生きてくると容易に推測できるだろう。
スピードある意思決定で、組織はしなやかに変化する
チームを超えて連携する、と聞くと関係者が増え意思決定のスピードが落ちることが懸念される。しかも不動産ビジネスはスピードが命。だが同社にとって、その心配は杞憂であった。
「不動産は時期を逃せば、二度と同じ条件のものは見つかりません。だからこそ、即座に価値を見出し、スピード感を持って買い付けをする必要があります」(緒方)
投資メンバーは、案件を3日抱えることは許されない。いい案件があれば、その場で買い付けできる力をメンバー全員につけてほしいと考える緒方。もちろん経営陣も、メンバーからの提案に最短スピードで返答する。
多くの大手企業からの転職者達は、そのスピード感と、ムダな資料作成などを一切省き、要点のみをまとめて提案できる仕事環境に驚くという。
「もちろん、最速で判断するためには高いデューデリジェンス能力が必要です。経営陣は、リスクへの感度を高め、常にその力を鍛えていますね」(緒方)
岡田は、数年前に契約に結びつけた海外案件においても、スピードの力を実感したという。
多くの日本企業が現地で調査を重ねて帰国、検討に数年かける中で、岡田らは現地で調査、検討し、決定まで行った。それを見て、「君達は他の日本企業とは違うんだね」との言葉をかけられたのだという。
また、このスピードはビジネスだけに留まらず、事業展開や組織作りにおいても発揮される。それを象徴するのが、2020年8月にスタートした物流事業だ。
「物流事業は約1年ほど前から準備をしてきたものの、コロナ禍によるEC需要の拡大をうけて、一気に舵を切った形になりました。ただ需要増だから物流拠点を作るのではなく、脱フロンという課題の解決を掲げ、冷凍冷蔵施設を作るという点が、霞ヶ関キャピタルらしさです」(岡田)
組織面では、人事流動などもスピーディーだという同社。「合わない仕事は長く続けることはない」と、能力を生かす場が別にあるならば、躊躇せず異動を打診する。「落ちこぼれを作らない」ということも、霞ヶ関キャピタル流の考え方だ。
「社員は皆、優れた能力の持ち主です。それを発揮してくれることが、何より大事ですから」(緒方)
ビジネステーマも人も、育てるスピードが速い。ここだ、というポイントを見つけたら一気にアクセルを踏み込む。それが同社の強みなのだ。
「変化にはエネルギーが要ります。でも、変化を前向きに捉え、新しいことを楽しむことができるメンバーが多いからこそ、堂々と変わって行くことができるんです」(岡田)
これからの会社をつくるのは、経営陣ではなくメンバーだ
今後の展望について聞くと、緒方は「メンバーそれぞれが、もっと自由に仕事をしてほしい」と語った。
「以前はどの案件も経営陣が全ディールを見て、大きな絵を描いたうえで、メンバーに動いてもらうことが多かった。でも今は、その役割を担うことのできるメンバーが育っています。彼らにはどんどん権限委譲をして独立採算をとるなど、部署を細分化し、自らチームを率いる経験をして欲しいですね」(緒方)
実際に、霞ヶ関キャピタルの部署は年々増加。さらなるリーダーが育つ土壌はすでにできあがっている。
「嬉しいことに、新たなプロフェッショナルが霞ヶ関キャピタルには次々と入社してくれるようになりました。私も岡田も、ウカウカしていられませんね」(緒方)
入社するメンバーに刺激をされ、自らも成長しなくてはと常に考えているという2人。
メンバーも経営陣も前進し続ける同社。今後も社会貢献を軸に事業を拡大するというが、次に手掛けるフィールドは「社員の提案次第」とあえて余白を残している。
次に同社が変化するとき、そこにあるのは新たな事業か、リーダーか。ただ一つ言えることは、全員がその変化を楽しみながら進んでいるということだ。