今回の記事は、なぜ今この時代、デザインの力を中高生に伝えることが重要なのか、IDEO Tokyoのインタラクション・デザイナーであり、日本において若者に向けたデザイン教育のワークショップなどをリードする油木田大祐がお伝えする。
僕がIDEOに入って驚いたことは沢山ある。みんなが17時頃にあっという間に帰宅してしまうことやワインを片手に作業をすること、ほかにも、いわゆる外資の洗礼みたいなことも多い。
その中でも特に驚いたのが、IDEOという会社が教育にかける想いの強さである。そして、そんなIDEOのデザインと教育への想いの交差点に鎮座しているのが、「d.camp」である。
d.campとは、もともとシリコンバレーの創業スタジオで始まった取り組みで、中高生にデザイン思考を体験してもらうサマーキャンプだ。2年前から東京スタジオでも実施されるようになり、今年は新型コロナウイルスの影響で、完全オンラインで行われた。
最近では、国内の中高でもデザイン思考が取り上げられうようになってきたが、微分積分やフレミングの法則と同じような感覚で「単元」として捉えられている節がある。そうではなく、己の手で作り上げたもので周囲の誰かを少しでも幸せにする「体験」としてデザインを体感してもらうことが、不確実性を増す今後の社会を生き抜く世代に不可欠なように思う。
デザイナーがデザインを教える
東京スタジオのd.campでは、毎朝ちょっと変わったエクササイズから始まる。即興演劇を行ったり、ひたすら落書きをしてみたり、はたまた実際に一片15cmの氷を「アイス・ブレイク」してみたり。Google Slideを使ってチームでZoom背景を共同制作したり、といった一風変わったアクティビティもある。
それが終わると、IDEOのデザイナーたちが自分の専門分野についての簡単なワークショップを行う「クラフト・モジュール」が行われる。午後は、5日間を通してデザイン思考を使って挑む「デザイン・チャレンジ」の時間だ。その途中で、現役のデザイナーたちと少人数でのコーヒーブレイクがあったり、共同経営者のトム・ケリーによる人生相談タイムがあったりもする。
盛り沢山なコンテンツの中で、根底として絶対にブレないのは、「デザイナーがデザインを教える」という構図である。当たり前なようで、意外と珍しいことでもあるのだが、各分野のプロがその分野について教えることが、d.campの大事な価値の一つだ。最近作っているものの紹介やプロジェクトで苦労したことなど、プロフェッショナルが試行錯誤した実例は贅沢であり、信ぴょう性がある。
そして何よりも、「これなら自分でもできるかも!」と思ってもらえる。デザイナー一人ひとりの人間くさい思考や実験を知る過程で、「何かを作り出すことは、思っているほど遠い行為ではないのかもしれない」と知ってもらいたい。
ビジュアル・コミュニケーション・デザイナーによるクラフト・モジュール