ビジネス

2020.12.25 07:00

4000億円空白市場を拓いた話題の専務、ワークマン土屋氏が「やめた」こと

「国内店舗数ユニクロ超え」で話題のワークマン。現場作業、工場作業向け作業服・作業用品日本最大手だ。

「国内店舗数ユニクロ超え」で話題のワークマン。現場作業、工場作業向け作業服・作業用品日本最大手だ。

主に現場作業や工場作業向けの作業服・作業用品の日本最大手、ワークマン。昨年には国内店舗数がユニクロを超えたことでもニュースになった旬の企業だ。
advertisement

その独自のマーケティング術はテレビはじめメディアでも話題だ。たとえば、同社の熱いユーザーである30人の「アンバサダー」の活躍がある。彼らアンバサダーは、ワークマン製品についての評価を発信する同社のスポークスマンではあるが、報酬関係はない。純粋なワークマン製品のファンである分、歯に衣着せぬ酷評もする。そして、その酷評を「丸ごと受け入れて」開発した製品の市場に対する反応は、自社だけのアイデアで作った製品よりも格段にいいのだ。

そんなユニークな戦術の仕掛け人として同社の急成長を支えるのが、10月に『ワークマン式「しない経営」』(ダイヤモンド社刊)も上梓した専務取締役の土屋哲雄氏だ。

土屋氏は過去、「肉眼では読めない小さな字が打てる専用プリンタ」や「ボウリング場のオンライン採点装置」といった画期的商品を隙間市場に投入し、幾多のドラマチックなヒットを生んだ伝説の商社マンでもある。ワークマン移籍後にはその合理的、科学的なニッチ市場探索テクニックも駆使し、自社にとっての第2のブルーオーシャン、4000億円もの空白市場を発見。実に10期連続最高益を果たした。
advertisement

その土屋氏がワークマンで実践する哲学は、頑張らない、残業しない、ノルマを課さない、極力出社しない、社内行事しない、接客しない、だ。そんな、ユニークにしてダイナミックな「しない経営」の立役者に、自身が意識して「やめていること」を聞いてみた。



Zoom時代にあえて「やめたこと」


土屋氏は、開口一番、こう答えてくれた。

「『簡単に人と会う』ことをやめていますね。Zoomで気軽に人に会える時代だからこそ、『人の紹介』で自動的に会うことはやめました」

周りからアレンジされる会い方だと、「自分が本当に会いたい人」の定義のど真ん中からは外れていく。だから、自分で本当に会いたい人は、自分で探して会うことにした。


作業服・作業用品日本最大手ワークマン専務取締役 土屋哲雄氏

「一番いいのは講演に足を運んで、名刺交換をして、日を改めて会ってもらうこと。そうでなければ、既存ネットワークの細い糸を何本かたぐり寄せて、仕掛けを作ってわざわざ会う。いろいろな『追っかけ術』を駆使して、苦労して会うのがいいんです」

そんなふうに、本当に教えを乞いたい人に絞れば、新しく会うのは年に5〜10人くらいにしかならない、と土屋氏はいう。

講演に足を運んで、あるいは相当のビッグネーム3人程度に仲介を乞うて1〜2カ月かけ、「1時間だけ会わせてくれ」と頼み込み、ようやく行き着く。そんな「追っかけ」をして会えた人からは、「聞きたかったノウハウをすべて聞き出す」と土屋氏は言う。

百均セリア社長も「追っかけ」た


「質問項目もA4で1枚、1週間くらいみっちりかけて練り、事前にメールで送っておきます。聞きたいことすべてを書き出すんですよ。本番ではそのリストに基づいて、質問攻めにしますね」

そうやって手をかけて会い、準備をし尽くして聞き出した情報は「参考にする、というレベルでなく、翌日からもう『会社方針のベース』にします」。たとえば土屋氏が最近、「追っかけて」会った相手には、データ経営の元祖であり、土屋氏が「仕組み作りのプロ経営者」とも呼ぶ100円ショップ大手、セリア代表取締役社長の河合映治氏がいる。河合氏からは、ワークマンの経営に速攻で生かせる「画期的」情報システムとその活用実態が聞き取れたという。

他にも、コンビニエンス業界のチーフデータアナリストで役員を兼務する人物にも「追っかけて会った」。ワークマンでは、店舗からの自動発注が必要だが、そのキモは「需要予測」だ。土屋氏は、その需要予測に、日本では稀有な百億円単位の資本投入をしたその人物を探し出し、熱烈にラブコールして面談にこぎつけたのだ。1時間質問攻めにして獲得したノウハウはやはり即日、経営に生かした。

「まさに、『賢者に従う』を実践しています」

賢者から「全員参加型経営の堅牢さ」を絶賛され──


土屋氏は10月に『ワークマン式「しない経営」』を上梓したが、この本の執筆条件として編集者に提案したのが、「早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授に会わせること」だったという。土屋氏は、入山氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年、ダイヤモンド社刊)を読んで感銘を受けていたのだ。結果、土屋氏のこの初の著書は、土屋氏と入山氏の対談を巻末に収載した1冊となった。

ちなみに、対談では入山氏が、ワークマンの「スタープレーヤー不要の全員参加型経営」を絶賛、同社を「人が入れ替わっても簡単には崩れない堅牢な組織」と評価。そして、自著を「仕掛け」としたこの公開の出会いでは、入山氏から土屋氏に「(同社にとっての)第3のブルーオーシャン候補、『釣り市場、ワークマンフィッシング』」の提案もされているほか、まさに「明日の土屋戦略」に生かされそうな知見の数々がシェアされている。

「簡単に人と会う」ことをやめ、手順を厭わぬことでこそ手にし得る果実の豊かさ。そのことに年末、思いをはせてみるのもきっと悪くない。

文=石井節子

タグ:

連載

「やめる」を決める

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事