「地方で仕事をつくる」人口2000人の離島で起業した男の葛藤、そして信念

東シナ海の小さな島ブランド(アイランドカンパニー)山下賢太氏

東京から1386km離れた、鹿児島の離島をzoomで繋ぐ。

待機中の画面が明け、取材対象者はどこか店内にいるようだとわかる。外は雨のようで、筆者が密かに期待していた島の広く青い空は見ることができない。

「今日は店番してるんです」

聞けばそこは築100年を超える古民家をリノベーションした豆腐屋だという。

鹿児島県、上甑島(かみこしきしま)。

人口2000人ほどのこの小さな島で、前述の豆腐屋以外にも、農業生産加工・ホステル運営・通販事業・デザインワーク・コンサルティング......延べ17もの事業を展開するのが「東シナ海の小さな島ブランド」、通称 アイランドカンパニーだ。

店番をしている、というこの男性こそ同社を設立した本人、山下賢太氏だ。

やり手の経営者というより「普通の島の兄ちゃん」と表現した方がしっくりくる。山下氏はこの島の出身で、京都の大学へ進学し数年の社会人経験を経てUターン起業した。

インタビューを進め、事業を進める中での苦労について聞いた際、彼はぽつりとこう漏らした。

「批判された時は、『僕自身を嫌っているのではなくて、理解してもらうための僕の努力が足りないのだ』と自分に言い聞かせて、必要以上に傷つかないよう意識してきましたね」

この言葉からも、彼が故郷へ戻ってからの葛藤をうかがい知ることができる。周囲の反応をどう受け止め、島の人々とどう接してきたのか、事業との向き合い方とは。

これらを探る質問に、山下氏は丁寧に言葉を選びながら答えてくれた。そこに溢れていたのは、「地元に戻りたい」「地方で暮らしたい」と思いつつも二の足を踏む人へ勇気を与えてくれる、そんな言葉たちだった。


築100年を超える古民家をリノベーションした豆腐屋、山下商店

地方で仕事を作る、に必要な「想い」。僕の場合、原風景を失ったことへの憤り


僕はかつて競馬の騎手、ジョッキーを目指し、甑島を離れて競馬学校に入学しました。しかし16歳で夢破れ無職に。その後、鹿児島市内にある高校に改めて入学しました。

高校3年生のある日、帰省した際にショックなことがあって。昔よく遊んでいた港を訪れたら、更地になっていたんです。島民の息遣いを感じる日常風景が失われたことに心を大きく揺さぶられました。

地域の運営は、誰かに託して成り立っています。多くの人が「公共サービス」という言葉の向こうにいる、実際に働く人の存在に気づいていない。当時の僕も「自分の住む地域を誰に託しているのか」に対して無関心だったことに気づいたのです。

地方で生業をつくろうとする人にはそれぞれ胸に宿す想いがあることでしょう。僕の場合は「自分たちの手でこの島の魅力を守らなければいけない」という想い。これが後の起業の原点となりました。

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文=澤雪子

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