テネブとバットの高頻度取引業界での経歴を考えれば、2人がウォール街の取引業者にとって最も都合のよい種類の口座を呼び込んでいることは驚くには当たらない。取引業者が喜ぶのは、値動きに勢いのあるモメンタム株を追いかけて、スプレッドの大きさをほとんど気にかけないタイプ、オプションに投機するタイプ。
そしてロビンフッドのアプリは、ゲーム世代の若くて経験の浅い投資家の心をとらえるように設計されているのだ。
ロビンフッドで取引を始めた投資家は、まず低価格の銘柄を1株もらえるほか、「購入」ボタンの上に配置された鮮やかなオレンジ色の「オプション取引」ボタンに気付くだろう。オプションは株より魅力的だ。より大きく稼げる可能性があるからだ。
また、オプション取引は偶然にも、ロビンフッドの本当の顧客であるところのアルゴリズムを使うクオンツ取引業者にとっても“極上の肉”だ。
投資銀行パイパー・サンドラーの最近の報告書によると、ロビンフッドがクオンツ取引業者から受け取る対価は、株取引では100株当たりわずか17セントだが、オプション取引では100株当たり58セント。ロビンフッドによれば、オプション取引をしている顧客は全体の12%。その12%が、20年上半期の取引注文の回送による収益の62%を占めている。
オプション取引でもいちばんおいしいのは、いわゆる「ストップロスの逆指値注文」だ。19年10月、ロビンフッドは「オプション用の指値注文と逆指値注文が登場」と大々的に発表した。これは取引を自動操縦モードに設定できる便利な機能だという。
ある元高速トレーダーは語る。
「まるで、あなたが秘密を書いて渡した紙を、あなたに対抗する取引に関心のある人間に売っているようなものです」
最近数カ月で、ロビンフッドはひっそりと構造改革を行っている。新たに調達した8億ドルのベンチャー資金のかなりの部分は、システムのアップグレードや、すでに300人いるエンジニアの増員に使われることになっている。また、カーンズの悲劇を受け、ロビンフッドのオプション取引のインターフェースも全面的に見直し、「オプション取引啓発スペシャリスト」を新たに採用した。
社内には切迫感が漂っているという。同社は2年にわたり、新規株式公開(IPO)に言及してきた。現在、ほぼゼロの金利と活況な株式市場のおかげでIPOの好機が到来しているが、この状態が永遠に続くわけではない。
よりメリットが大きいのは、ゴールドマン・サックスやUBS、あるいはメリルリンチといったフルサービスの金融サービス会社に身売りするという選択肢だ。そうすれば間違いなく、若き創業者のテネブとバットには10億ドル規模の利益がもたらされる。優秀なトレーダーなら誰もが知る通り、売らなければならないときに売るより、売れるときに売るほうがはるかにいいのだから。
ロビンフッド◎2013年創業のディスカウントブローカー。同名の投資アプリで、手数料無料と最低預入残高なしを強みにユーザーを集めている。オプション取引に多くの投資初心者が参入するきっかけとなった。しかし現在、3月の取引中断に関して証券取引委員会(SEC)が調査中。巨額の罰金を科される可能性がある。