もちろん実績の全てを捨てる必要はない。実績を要素分解したうえで、何を残して何をUnlearnするのか、きちんと見極める。身体と同様、キャリアにも健康診断が必要なのだ。これは自分で判断するのではなく、採用マーケットにぶつけることで明らかになる。
「採用の現場では、自分が説明したいことを話すのではなく、採用企業側の観点で話すことが求められます。別に転職活動をしなくてもいいので、自分のキャリアをぜひ定期的に健康診断してほしいですね」
社会課題を解決し続けるためには、自らも変化し続ける必要がある。そのためには学び続けることが必要だ。だからVisionalにも「Unlearn」が欠かせないのだと南氏。
ビズリーチの経営から完全に離れたのも「Unlearn」の1つ。自分のマインドシェアが離れるからこそ、中長期的な視点でグループ全体を考えられるようになったのだという。
創業メンバー(Visional誕生前、創業10周年の記念日にて)
ずっとマイノリティだったから、「捨てる」ことにワクワクできる
自分にとって「やめる」ことは「新しい何か」を入れるためのUnlearning。Unlearningこそ最大の「攻め」だと語る南氏。そう考えるようになったのは、自身の育ってきた環境が深く関わっているという。
「僕は学生時代に国をまたいで転校していて、ずっとマイノリティで育ってきたんです。6歳からカナダで育ちましたが、白人の中で唯一のアジア人でした。中学で日本に戻りましたが、今度は日本語が喋れない。毎回言語がなくなる感覚です。
今だからこそ笑って話せますが、当時は親を恨んだこともあります。コミュニケーションが取れないと、勉強だけでなく生活そのものにも支障があるんですね。価値観もルールも、求められることも全部違いますから。
僕は新卒で外資系の金融会社に入り、楽天でスポーツビジネスに携わって、IT分野でビズリーチを創業しました。社会人になっても業界をまたいでキャリアを築いてこれたのは、『捨てるから、新しい自分をつくれる』という価値観が根幹にあるからだと思っています」
不確実性が高い不安定な環境に何度も放り込まれてきたので、本能的に「捨てる」ことに躊躇がないという。だからブランディングの観点で考えたらやらない社名変更も「僕はワクワクしかしていないんです」と笑う。
そんな南氏がこれまでの人生で捨てた最も大きなものとは何か。それは17歳のときに日本の大学に行く選択肢を捨てて、アメリカの大学に進学したことだという。
南氏は静岡県立浜松北高校出身。100年目の卒業生とのことだが、海外の4年制大学に直接進学した生徒は南氏の知る限り前例がなかった。時代はインターネット登場前で情報も少なく、学校からは大反対された。
担任や各教科の先生から、毎日のように「なぜアメリカに行くんだ」と問われ続けた南氏は、それでも自分はアメリカに行きたいのだと次第に決意を固めていく。