そうしたトライ&エラー含むデジタル、テクノロジーへの投資額が店舗投資を上回る年間5000億円以上、ランニングも含めれば1兆円と半端ないです。テクノロジーへの支出額は、アマゾン、グーグル(アルファベット)に次いで、もはや全米第3位になっています。
日本企業なら、ソニーやパナソニックより、イオンやイトーヨーカードーがデジタルやテクノロジーへ投資しているようなものです。それを意思決定しているのが14年に47歳でCEOに就任したダグ・マクミロンと、EC部門のトップであるロアなのでしょう。ウォルマートの抱えるエンジニアの数はすでに8000人、すぐに1万人を超える勢いといわれています。
玩具情報ページ「ウォルマート・ワンダー・ラボ」より。オンライン上で様々な商品デモがスムーズに表示され、実際の使用感をインタラクティブに体感できる仕掛け。動画再生の手間などはなく、顧客の側に特別なデジタルの知識は要らないのが特徴。
かつてのウォルマートのごとく、恐竜のようにサイズだけ大きくて古かった既存ビジネスの場合、その規模が足かせになることもありますが、うまくデジタルシフトできれば一気に新しいマーケットが取れる。
経営学の教科書にある古典的な「アンゾフのマトリクス」を連想します。既存顧客、新規顧客、既存製品、新規製品、この4マスのどこを狙うかを考えると、新規顧客x新規製品のマスは "0 to 1" のイノベーションが必要なので、かなり難しい。
今の顧客か今の商品か、この自社の強みに立脚しながら、デジタルを徹底活用して非連続なジャンプを仕掛けるのがDXです。
DXを起こせる3つの条件が今の社会に揃っている
DXで重要なのはX、トランスフォーメーションです。デジタル変革を超えて、DXは「企業変革」そのものを指す言葉と考えています。だから、ペーパーレスとか、ハンコをなくすという小さな話ではありません。顧客も、商品やサービスも、働いている人たちさえもガラッと変わる。生物学的に言うなら、まるで “別の生命体” に変容するということです。
そのために使える手段がデジタルです。背景には2020年の社会がすでに大きくデジタル化したという事実があります。まず、昔ほどハード面での投資が要らなくなりました。加えて、デジタルツールやSNSの影響でユーザーの行動が大きく変化しつつある。ましてや、デジタルには地理的な距離も関係ないため海外展開もすぐ出て行けます。
こうした変化をポジティブに捉えると、デジタルでマーケットのシェアをひっくり返せる可能性すらあります。ジャイアントキリング(スポーツ界で「大番狂わせ」の意)できる千載一遇の機会なわけです。アメリカの企業は自分たちが大胆に変わることに対する意欲が非常に強いから、日本の私たちからするとうらやましく見えてしまいます。
植野大輔(うえの・だいすけ)◎複数の大手企業でDX推進を支援するDX JAPAN代表。早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)入社、在籍中にローソンへ約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年、ファミリーマート 改革推進室長に就任。マーケティング本部長として本部組織のゼロからの立ち上げ、クリエイティブ刷新などマーケティング機能の構築に従事。18年、デジタル戦略部長に着任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げなどのDXを指揮した。20年3月より現職。
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