ネットフリックスのオリジナルコンテンツ路線への移行を指揮したのは、CCO(最高コンテンツ責任者)だったテッド・サランドス。2020年7月、ヘイスティングスとともに共同CEOとなる。13年から配信されたドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は、デヴィッド・フィンチャー監督と俳優のケヴィン・スペイシーが製作総指揮した本格作で、プライムタイム・エミー賞を受賞。写真左からフィンチャー、スペイシー、サランドス、俳優のマハーシャラ・アリ。
コンテンツカンパニーへの変身を支えたのはネットフリックスの人事制度といわれています。DXの話では「どんなデジタル技術を使うか」ばかりに関心が向きがちですが、「どうやってトランスフォーメーションを起こせる人材を躍動させるか」がはるかに肝心です。
サービスを支えるエンジニア、アルゴリズムを設計するプログラマーの採用が16年くらいから本格化しただけでなく、ビジネスのアライアンスを用意する人からコンテンツの制作スタッフまで、多様な人材を招きました。
そんな企業文化を紹介したテキストを、フェイブックのシェリル・サンドバーグCOOが「シリコンバレーで生まれた最高の文書の一つ」と絶賛しています。最新版はネットフリックスの採用ページに日本語でも公開され、国内の超一流人材を続々と引き付けています。
恐竜・ウォルマートを変えた、デジタルへの惜しみない投資
人事がDXを進展させた例で、近年よく挙げられるのはウォルマートです。10年ほど前に私がアメリカで店舗を視察したときは、落ちぶれた感じのオンボロな店舗に、来客もまばらでした。それがDXに本腰を入れて、店舗も変革して、ネット通販もやっていくようになり業績が回復しました。
フォーチュン・グローバル500で第1位(2020年)のウォルマートは、年間売上高50兆円を超える世界最大のスーパーマーケットチェーン。悪化していた業績が2008年ごろ底を打ち、12年に上場来最高値を更新した。コロナ禍において非常に好調な業績を見せる。20年第1四半期の米国における既存店売上高は前期比10%増、オンライン売上高にいたっては同74%増となった。
象徴的なのは、16年にジェット・ドット・コムというECサイトを約33億ドルで買収し、創業者のマーク・ロアをネット通販部門のトップに据え、DXの統括責任者にしたことです。ベースもシリコンバレーに置き、デジタル人材を積極的に登用したんですね。ジェット・ドット・コムのサービス自体は20年5月に終了しましたが、これもウォルマート・ドット・コムが十分に成長して統合できたからです。
コロナ禍もあり、今はリアル店舗でのピックアップが好調です。これはオンラインで受けた注文の品をピッカーと呼ばれるスタッフが店内の棚から取ってくるサービス。一方、実験していた棚監視ロボットは、お客さまが怖がるという理由でやめたようですが、ドローンによる無人配送も検討していると聞きます。