舞台は、インドはもちろんのこと、中東、イタリア、ポルトガル、オーストラリアなど世界各地に目まぐるしく飛び、しかも映像も細かく丁寧にカットを重ねながら、ヴィジュアルも計算され尽くされている。アクションシーンに至っては陸に空に氷上にと縦横無尽に繰り広げられ、2時間31分の上映時間も倦きることがない。
劇中にインド映画ではお約束の踊りのシーンも登場するが、違和感なく物語に溶け込んでいるところはさすが。コロナ禍でのストレス解消には絶好のエンタテインメントに徹したスパイアクションだ。シッダールト・アーナンド監督には、ぜひ「007」のような人気スパイシリーズを撮ってもらいたい。
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4.「胸騒ぎのシチリア」(2015年)ルカ・グァダニーノ監督
コロナ禍で海外旅行がままならない昨今、魅力的な風景が描かれた作品を観て、その気を紛らわせていたという人も多いのでは。筆者は、海外渡航が厳しく制限された時期にこの作品を何度も観て、昂じる「旅欲」を晴らした。
思うに、この作品、無責任な邦題で損をしている作品の典型かもしれない。英題は「A Bigger Splash」で、そのような邦題を付けたくなる気持ちもわからないでもないが、そもそもこの作品はアラン・ドロンとロミー・シュナイダーが共演したフランスとイタリアの合作「太陽が知っている」(原題「La piscine」、1969年)のリメイクなのだ。
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「La piscine」とはフランス語で「プール」という意味で、2003年にはフランソワ・オゾン監督が「スイミング・プール」というタイトルで、まるでオマージュのような、同様のシチュエーションの作品を撮っている。言わば、「胸騒ぎのシチリア」は、その意味でも邦題には似合わぬ由緒正しい出自を持つ作品なのだ。
監督のルカ・グァダニーノは、次作の「君の名前で僕を呼んで」(2017年)が、作品賞をはじめアカデミー賞に4部門にノミネートされ、一躍注目の監督となるが、この「胸騒ぎのシチリア」でも、男女4人の愛憎模様を、避暑地のプールで起きる事件を中心に、きめ細やかに描いている。
また「胸騒ぎのシチリア」というタイトルだが、厳密に言えば、作品の舞台は「シチリア」ではない。シチリアとチュニジアの間に位置するパンテッレリーア島なのだ。
むしろアフリカ大陸に近いこの島は、活火山を擁した火山島で、溶岩の中につくられた野外レストランや、物語の展開点ともなる美しい入り江など、作品の随所に旅心をかき立てる風景が描かれている。いまや自分的にはパンテッレーリア島は、コロナ禍が収束したら真っ先に訪れたい場所となっている。
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