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シネマ未来鏡


5.「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」(2015年)ジャン=マルク・ヴァレ監督

長々しい邦題が付いてはいるが、原題はいたってシンプルで「Demolition」、つまり「破壊」あるいは「解体」だ。残念ながら、この作品はコメディでもスパイアクションでも、風光明媚な作品でもない。主人公が妻の突然の死に遭遇して、激しい破壊衝動に襲われていくという複雑な内面を描いた作品だ。

とにかくその破壊衝動が凄まじい。義理の父親の投資銀行で有能なビジネスマンとして働いている主人公(ジェイク・ギレンホール)が、突然、交通事故で亡くなった妻の死に対して、まったく心に動揺が生まれなかったことから、彼女に対して本当に愛情があったのかと疑い始める。

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(c)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.

その不安定な心理状態から、主人公は次々とモノを解体、破壊していくという行為に出る。妻が修理を促していた冷蔵庫から始まり、電灯やトイレのドア、会社のパソコン、それに高価なエスプレッソマシーンまで、主人公は身の回りにあるものを根こそぎバラバラにしていく。

極め付けは、妻と住んでいた自宅の破壊だ。思い出が染み付いた部屋を次々と壊していき、ついにはブルドーザーを購入して、高級住宅街に建つ瀟洒な自宅を丸ごとなぎ倒していく。ここまで破壊も徹底すると、一種、すっきりした気分にさえなる。

監督は、余命30日を宣告されたエイズ患者の葛藤を描いて、アカデミー賞6部門にノミネートされ3部門で受賞を果たした「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013年)のカナダ人監督、ジャン=マルク・ヴァレ。さまざまなメタファーに満ちた難解な作品で、いろいろと考えさせられるが、主人公がモノを破壊したくなる気持ちは、コロナ禍で続く自粛生活のなかでは、胸に響くものを感じる。

もちろん、これらの破壊行動の果てに、主人公は心穏やかな状態を迎えるのだが、このストーリーの流れも、閉塞状態に見舞われた2020年の暮らしには、貴重な処方箋をもたらしてくれているようにも映る。コロナ禍でいろいろ考えさせられる機会も多いと思うが、この作品がひとつのレファレンスになるようにも思う。

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『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』Blu-ray&DVD発売中/DVD3800円(税抜)Blu-ray4700円(税抜)/発売元:カルチュア・パブリッシャーズ/販売元:TCエンタテインメント

2021年が再度「新型コロナウイルスの年」として記憶されることがないよう、またその締め括りに、また同じような企画について執筆することがないように、いまはただただ祈りたい。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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