専門職だけで完結させず、地域の一人ひとりができることを集めた方が、ぴさらに来る若年の妊婦や子どもたちの周囲は豊かになるのではないか。地域が関わることで、ちょっとした眼差しが温かに変わったり、煙たい存在としてではなく「私たちの中のひとり」になったりしていくのではないか。斎さんはそう語る。
「彼女たちは『誰かが支援してくれるだけの存在』ではなくて、『私たちの周りにいるひとり』だよね、という認識に変わることで、自分たちにもできることがあるんじゃないかと、地域や社会が少しずつ変わっていくかもしれない。その場、その時の支援も大切にしながら、中長期的な視点で社会を作る働きかけもしていきたい。課題だけではなく、周りにある資源ってなんだろうと、ニーズとキャパシティ両方に目を向けていきたいです」
8月には、ピッコラーレのスタッフに対面で相談できる「ピコの保健室」もオープンした。妊娠不安で電話やメールをしてくる人の中には、もっと詳しく知りたい、彼と一緒に聞きたい、という人もいる。「人がたくさんいるところで性の話はしにくいので、これまではカラオケ店の個室を利用することもあったけれど、ここなら模型を使ってコンドームの着け方講座もできます」と小野さんは微笑む。
「ピコの保健室」は現在、月・木・土の予約制。実際のコンドームや妊娠検査薬などを手に取って見たり、無料で利用することもできる。
大海原から出されるSOSをキャッチ
中島さんが『漂流女子』を出版した時、自分たちは「港」のような存在になれたら、そう話していたという。大海原に浮かぶ、豪華客船やイカダのような小船から出されるSOSをキャッチして迎えにいったり、ここにおいでと言ったりできる。
「でも港って、宿も食堂も市場も診療所も揃っている場所で、自分たちが担うには大変だと気がついて(笑)港は無理かもしれないけど、『しおだまり』ぐらいにはなれるかもしれないねって」
しおだまりは、時間や季節によっても姿を変える。海の状況によって、大きくなったり小さくなったりもする。たくさんの生き物が棲むが、その生き物も変わっていく。でも、穏やかな時は、それぞれがそれぞれの場所に、ただ居ることができる。それがしおだまりだと、中島さんは言う。
「居場所がない妊婦さんがやっとの思いで出したSOSに、『大丈夫。いつでもおいで」と言える場所が必要だと思いました。大切なのは、中絶をしても、出産をしても、否定されないこと。安心して心から、『ここにいていいんだ。生きていていいんだ」そう感じてもらえる場所でありたいです」
行き先を決めるのは自分自身。ここはずっといる場所ではなく、本人がいたいと思える場所を見つけるまでの居場所だ。でも、戻れる場所があれば、人はまた大海原へ力強く泳ぎ出せるかもしれない。このしおだまりには、妊娠という大きな出来事にも、動じず、一緒に考えてくれる人たちがいる。
一軒家の1階に2部屋、2階はリビングと事務スペース。2階は天井が高く、大きな窓から光と風が入ってくる心地よい空間だ。
連載:共に、生きる──社会的養護の窓から見る
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