──「楽観的」という言葉の中には、「未来は変えられる」という自信のようなものも感じました。
「楽観」には2種類あって、1つ目は「意志“なき”楽観」。
とあるテレビ番組で観た「渋谷の若者に未来のイメージを聞く」というインタビューで、意外と楽観的な意見が多かったのが印象的だったのですが、同時にすごく違和感も感じました。
この違和感の正体は、彼らの楽観は「このままいくとこうなるけれど、まぁそれでも別にいいよね」という諦めのような感覚だということ。つまり「意志“なき”楽観」です。
逆に、「意志“ある”楽観」というのが、起業家に求められるものです。
「このままいくとこうなるけれど、自分たちが頑張れば未来はこう変えられる」という意志。未来は自らの手でより良いものにできるという自信こそが起業家が持つべき「意志“ある”楽観」です。
──起業家の素養3つ目として挙げられた「時間軸の認識」についてもお教えください。
もう少し噛み砕いて言うと「どの時間軸で物事を見ているかを認識すること」が大切だということです。
例えば、今やっている仕事を短期的な時間軸だけで見ると「つらい」「大変」と感じたとしても、長期的な成果と紐づけて考えられれば大変ではなくなる場合があります。
これは周囲からの意見を聞く時も同様です。その人の意見が「短期的な時間軸」のものか、「長期的な時間軸」のものかを冷静に見極めることができれば、効果的に自身に取り込むことができるでしょう。
これは「楽観的」になることにもつながってきますが、「長期的な時間軸」の意識を持ち続け、自分の未来を信じ抜くこと。これが起業家に求められる素養だと思います。
「エモーション」と「ロジック」の行き来
──起業家の素養として「 エモーションとロジック」を両方持ち合わせることを挙げられていました。高橋さんはその素養をどのように養われたのでしょうか?
これは起業で数多くの困難を乗り越えるうちに身についた素養だと思います。自分がネガティブな感情に苛まれているときに、そもそも何が自分をそう思わせているのか、ということを客観的に考えるようになったのです。
例えば私の場合、個人向けに大規模な「遺伝子解析サービス」を展開するのが日本で初めてのことでした。初めてのことなので、それを禁止する法律もなければ、守る法律もない。
そんな状況下でサービスを始めると、様々な反対意見をいただきました。「遺伝子解析」という得体の知れないものに対して、拒絶反応を示す人が多かったのです。
色々と言われてつらかったのですが、起業家である以上、その自分のネガティブな感情を放置しておくわけにはいきません。そこで、拒絶反応を示す人の心理を客観的に分析してみることにしたのです。
結果、「人はわからないものに対して本能的に恐怖を感じやすい」「革新的な趣向の人もいれば保守的な人もいるからこそ、人類の多様性が担保されている」といった結論に至りました。要は、人間の全体最適として「反対する人」がいるのは当然だと考えられたのです。
そう考えられるようになると、自分のネガティブな感情がなくなっていきました。自分のやっていることを、世界の構成要素の一つだとメタ認知できるようになったからです。