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和歌山の一軒家レストラン「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司シェフ

和歌山県岩出市の長閑な田園風景の中の一軒家レストラン「ヴィラ・アイーダ」。自家農園で育てた野菜を生かした料理が注目を集め、「Top 100 Best Vegetables Restaurants 2019」で17位に選出、辻静雄食文化賞の専門技術者賞も受賞した。

大阪から車で1時間、周りに観光名所があるわけでもないのに、このレストランで食事をするためだけに、遠方からゲストが訪れる。その人気を考えれば、店を大きくして席数を増やしたり、支店を出したりするなど、受賞の波にも乗って事業を拡大することもできたはずだし、実際に多くのオファーがあったことも想像に難くない。

しかし、オーナーシェフ、小林寛司の思いはその逆だった。「ヴィラ・アイーダ」は20周年を迎えた2019年5月から、通常のランチ・ディナー営業をやめ、一日1テーブルのみのレストランに業態変更した。なぜ、小林は、店を大きくすることをやめたのか。その理由について、語ってくれた。



節目で選んだ新たな挑戦


この決断について聞くと、小林は「僕が好きなのは料理をすることで、実は『仕事』は好きじゃない」と言う。「仕事」とは、原価や人件費を考え、ビジネスとしてレストランを経営していくことだ。

25歳で開業、経営者として20年間レストランを営業し、建物のローンも完済したタイミングでの業態変更は、自分への「ご褒美」でもあったのだろう。経営をシンプルにし「料理=自分のつくったもので目の前にいる人を幸せにする」という、“本当にやりたいこと”に専念することを選んだ。

「精神的にも肉体的にも過酷な料理人という仕事には、年齢・体力的な限界があるのもわかっている。だからこそ、日々の営業に振り回されない形態を取り、新しい料理の創作に時間を取りたかった」

経営者ではなく、一料理人として、自分がどこまで行けるのか。40代半ばにして、さらなる高みに挑戦することに舵を切ったのだ。2〜3年前から、意欲的な若手シェフが地方で開業することが増えるなかで、「地方での一つの形として、自分のやり方を見せていきたい」という思いもあった。



農家の長男として生まれ、レストランで使うため、親から受け継いだ畑で野菜を育て始めて17年。「もしうまくいかなくても、夫婦2人なら、自給自足と、近所との物々交換で最低限暮らしていける」と思えたことも、後押しになった。

文=仲山今日子

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