──ステークホルダー資本主義とグレート・リセットについて、詳しく教えてください。
リー・ハウエル(以下、ハウエル):企業は株主のためだけでなく、社会も含めた、あらゆる利害関係者に貢献すべきだというステークホルダー資本主義は、1973年の第1回「ダボス・マニフェスト」の中で提起された。
そうした考え方は当時の企業規範に逆行するものだった。だが今や、ステークホルダー資本主義は、社会や政治、環境をめぐる分断に対処し、前進するための最善策として、米主要企業が加盟する財界団体「ビジネス・ラウンドテーブル」や欧州の企業組織に支持されている。
そもそも日本では、150年超の間、社会に浸透していた考え方だ。江戸時代に生まれた「三方良し」という概念は、売り手と買い手、社会の三方が商売の恩恵を受けるべきだという考え方であり、日本の経営理念の核を成している。
一方、コロナ危機に見舞われた世界のリーダーらにとって、受け入れがたい点が2つある。1つは、パンデミックのようなグローバルなリスクが国家・地方レベルで発現するということ。2つ目が、一国のみでパンデミックの発生を防ぎ、その影響を軽減できる国は皆無だという点だ。つまり、ステークホルダー資本主義の観点から、発想を変えねばならないということだ。
まず、世界が直面する難題の大半は、政府や企業、社会の協働なしに解決不可能だと認識する必要がある。コロナ危機は従来のシステムを根こそぎ破壊したが、そうしたシステムは多くの意味で持続不可能なものであり、抜本的改革が必要だという点も認識すべきだ。
そこで提案したいのが「グレート・リセット」だ。今こそが、もっと公平で自然を重視した未来を築き、世代間の責任とグローバルな市民としての立場を統合するための好機だととらえ、現状を見直すこと。それがグレート・リセットだ。
WEF創設者兼会長のクラウス・シュワブ教授が新刊『COVID-19: The Great Reset』(未邦訳)で書いているように、私たちは岐路に立っている。一方は、より包摂的で公平で、母なる自然を敬う、よりよい世界へと続く道。片方は、コロナ禍で抜け出したばかりの従来の世界だ。
正しい方向に進むには、グレート・リセットが必要だ。来夏の年次総会のテーマを「グレート・リセット」にしたのも、そのためだ。同総会は長年、批判的対話を行い、経済や社会の発展を目指し、より強固な基盤構築に向けて共同行動を取るべく、多様な声を取り上げてきた。