あるスコットランド人青年を虜にした、日本漫画の「あのシーン」

(左)『ラヴ・バズ』の一部シーン。(右)Getty Images


「どうしてもここにいられない」。圧倒的なストレスがあった


門倉:志村作品について語る中で「本当の自分」という言葉が何度か出てきましたが、志村作品のこの部分に惹かれたのはなぜでしょう。ご自身のこれまでの経験や考え方が影響している面はありますか?

ウィルソン:うまく説明できないと思いますが、やってみます。

小学校の頃、どうしてもここにいられない圧倒的なストレスみたいな気持ちがよく湧いてきて、ほぼ毎日突然教室から逃げたりしました。藤さんがリングから逃げ出すシーンを読んだら、少し似ているような気持ちかなと思って、共感しました。

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『ラヴ・バズ』より

ウィルソン:小学校を卒業したらその気持ちが収まったと言いたいですが、結局小学校の最後の学年に辞めて、高校卒業の年齢まで在宅教育を受けました。日本語やデザイン、カリグラフィーなど、色んな面白いことを中心にして勉強しました。もう大丈夫かもと思いましたが、数年前カレッジに行き始めたら、同じ気持ちがすぐに湧いてきました。教室から逃げたりはしなかったんですけど、結局カレッジは辞めました。

その後『ラヴ・バズ』を読んで、キャラクターの皆さんの苦労に立ち向かう努力に憧れてしまいました。

そして藤さんにもある、まわりの人達とどこかが違う、志村作品によくある何か……テーマと言えるかどうかは分かりませんが、そういったものにとても共感できます。

門倉:つらい思いをされた学生時代のことを書いてくださってありがとうございます。そのような状況にあっても、ウィルソンさんは自分の好きなことを見つけて、勉強して、今こうして美しい日本語で文章を書いているのですね。とても素敵です。

ウィルソン:『ラヴ・バズ』に含めてある気持ちの何が「分かる」と感じたか、一番説明できそうな経験だと思い、書きたかったです。

門倉:ウィルソンさんや藤のように、自分に正直で純粋な人にとって、学校はストレスが強くかかる場所だと思います。志村さんは、そういう方たちのためにマンガを描いているのかもしれません。

私は、藤のように「本当の自分」で生きている人を心から美しいと思うのに、自分はそうなれていないという矛盾と戦っています。だからこそ、藤に強く憧れるのですが、ウィルソンさんは藤と似ている部分があるのですね。
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文=門倉紫麻 編集=石井節子

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