少なくとも、11月30日に発表された、同国の石油大手アラムコと関係他社の発表を見るかぎり、それ以外の結論を導き出すのは難しい。ただし、その意義を理解するには、ほかの情報を知る必要がある。
中心となる報道は、アラムコがシェル&AMGリサイクリングBVとのあいだで、世界屈指のバナジウムリサイクル施設の建設に向けた実現可能性調査を実施するための覚書に署名したことだ。シェル&AMGリサイクリングBVは、石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルと、アムステルダムにある特殊素材企業アドバンスト・メタラジカル・グループ(AMG)NVとの合弁会社だ。AMGは、使用済み触媒からバナジウムを回収する技術におけるトップランナーであり、世界最大の金属リサイクル企業でもある。
さて、読者の多くは、バナジウムとは何か、バナジウムがサウジアラビアと同国のグリーン・イニシアチブの拡大にどれだけ重要なのか、馴染みがないかもしれない。
まず知っておくべきは、石油産業では原油をガソリンなどほかの製品に変換する際に、触媒を使用するということだ。触媒は永遠に使えるわけではなく、ある時点で効果を失い、使用済みになる。使用済みの触媒には、原油に由来するバナジウムが含まれる。こうなると新しい触媒が必要になり、有害な使用済み触媒はリサイクルされる。
シェルとAMGの合弁企業が「グリーンサウジ」を加速させる
ここで、シェル&AMGの出番だ。同社がアラムコと締結した覚書は、バナジウム回収施設建設の実現可能性について調査計画を策定するというものだ。
AMG NV監査役会の長を務め、ジョンズ・ホプキンス大学の応用経済学教授でもあるスティーブ・ハンケ(Steve Hanke)は、「民間部門でのイノベーションこそがクリーン化を進展させる。それが今まさにサウジアラビアで起きている」と述べる。「ある分野での有害廃棄物は、別の分野での宝になる。AMGはこうした触媒をそのように見ている」
バナジウムのリサイクル自体もグリーンなプロジェクトだが、話はそれだけではない。
バナジウムは、鋼鉄の強度と弾性を高める合金化剤として利用される。添加用に加工された「フェロバナジウム」を鋼鉄に添加することで、通常の非合金鋼を使う場合よりも少ない量で建物を建設できるようになる。鋼鉄の使用量を削減できれば、コストが抑えられ、二酸化炭素排出量も減少し、経済性と環境配慮を両立できるわけだ。