日本語にして「ぜいたく、高級品」という意味を持つこの言葉は、ソーシャルステイタス誇示という匂いがする。「他人を羨ましがらせたい」との意図が見え隠れする。だからラグジュアリーは下品だと表情を歪める人がいる。
ただ、これからスタートする本連載はこのような心理の万華鏡ぶりだけに焦点をおいてラグジュアリーを語らない。
本連載を続けながら探りたいのは、自ら新しいラグジュアリーをこれから作りたいと思うときに、どのようなロジックで土俵入りできるか? である。それを見出すことで、新たなラグジュアリーが生まれる土壌づくりに貢献したい。または、この分野に挑戦する人の志の強化にも役立てればと思う。
「高級品業界」という括りがなくなる
ぼくはこの2年間ほど、ミラノを拠点にこのテーマについてリサーチを重ねてきた。ヨーロッパの研究者や実務家に会って話を聞き、インドの大学でラグジュアリーマネイジメントを教える先生にもインタビューした。インドの刺繍工房と組んでラグジュアリーを表現しようとしているイタリアの若い女性とも話した。スイス企業が新しいラグジュアリーのコンペティションを主催し、世界中からスタートアップが参加していることも知った。
そこでよく分かったのは、まだ誰も新しいラグジュアリーのあり方について確固たる説明を示せていない、ということだ。その現実の一端が次のようなエピソードからも窺える。
11月18日、イタリアの高級ブランド企業が加盟するアルタガンマ財団の年次報告会がオンライン開催された。19回目である。このイベントはラグジュアリー市場の動向として毎年世界中から注目されるが、特に米国戦略コンサルタント会社であるベイン&カンパニー社のミラノオフィスが発表する実績・予測数値データとトレンド分析が関心の的である。
その彼らがこれから10年間の2030年までに起こりうる変化として、「今後は『高級品業界』という括りではなくなり、『文化と創造性に秀でた商品が入り乱れる市場』になっていくことが予測される」(同社の同日付プレスリリース)と表現した。
また、ブランド、商品、イノベーション、マーケティング、顧客体験などビジネスにまつわる全ての要素が刷新される可能性があり、当面「他社の二番煎じ」はまったく通用しない時代に突入したと強調した。