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朝日新聞外交専門記者


外務省の別の幹部によれば、東京夏季五輪(21年)と北京冬季五輪(22年)の成功にとりわけ熱心だったのが王氏だったという。王氏は翌11月25日の菅義偉首相への表敬でも、わずか20分間という短時間にもかかわらず、やはり東京五輪と北京五輪の成功のために協力していくことを確認した。

この幹部は王氏が両五輪の成功に熱心だった背景について、「理由のひとつは、人的交流の成果を挙げたと北京に報告したかったからだろう」と語る。王氏の頭には、どうやって習近平氏へのアピールに成功するかという考えしかない。人的交流を続けることができれば、棚上げになっている習近平氏の日本への国賓訪問にも道が開けるだろう、という言い訳ができるというものだ。

そして、もうひとつの理由について、この幹部は「北京五輪がモスクワ五輪になるのではないか、という恐怖感があったからだろう」と語った。

1980年のモスクワ五輪。旧ソ連のアフガニスタン侵攻により、米国、西ドイツ、カナダ、日本など約50カ国が参加をボイコットした。日本でも、18競技の計178人が代表に選ばれながら、五輪の舞台を踏むことができなかった。

40年後の今、中国も国際社会から厳しいブーイングを受けている。尖閣諸島を巡る日本との対立だけではなく、南シナ海ではフィリピンやベトナムなどと領有権争いを起こし、最近ではカシミール地方を巡るインドとの紛争、貿易などでの報復措置を巡る豪州との対立など、世界のあちこちで争いごとを起こしているからだ。

このままいけば、本当に北京冬季五輪への参加をボイコットする動きが出てきてもおかしくない。王氏の訪日目的の一つには「中国が東京五輪の開催成功に協力するから、日本も北京五輪には必ず参加すると約束して欲しい」という思惑もあったと言えそうだ。

それにしても、ただでさえ、新型コロナウイルスの感染拡大で開催を疑問視する声が日本国内に渦巻いているというのに、永田町からは「コロナに打ち勝ったシンボルにしよう」といった、スポーツイベントの趣旨と関係がないようなかけ声があがる。

11月に来日した韓国の情報機関、国家情報院の朴智元院長は菅首相らとの会談で、「東京五輪を、北朝鮮外交の良い機会にしよう」と息巻いた。韓国は韓国で、金正恩朝鮮労働党委員長の実妹、金与正党第1副部長がやってきた2018年の平昌冬季五輪の興奮からまだ醒めることができずにいる。そして、中国の今回の動きだ。

ヒトラーは1936年のベルリン五輪を、アーリア民族の優越性とナチスドイツの国威発揚に利用した。あれから80余年。人類は多くのことを学んだはずではなかったか。

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文=牧野愛博

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