が、「肉食男子」の恋の向かいどころが「草食女子」であり、自然界には成り立たない恋愛であるのと同じくらい「草食男女」が恋愛に消極的な仲良し、というのも自然界に成り立たない世界である。
というのは、自然界では、同種のオスメスは自動的にセックスするものだからだ。野生動物にとって、異性に発情しないというチョイスはない。
草食男子とは誰か?
もし、男が肉食獣で女が草食獣、そういう関係性が、性愛において起こりやすいものだとする。だとすると、男性のむずかしさがもうひとつある。
もし、男が狩りをしないといけないのなら、狩りは教わらないとできないということだ。生まれ落ちて、単独で狩りができる肉食獣はいない。絶対に狩りを習う。
男にセックスの「教材」やハウトゥ本が、異常に多い理由が、初めて腹に落ちてわかった気がする。それは必要なのだ。
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しかし「狩り」の内容が、現代では複雑な情報戦になってきている。
思うに。エネルギーの流れとしては男性が押すのが良くても、セックスは二人でなくてはできなくて、そこに「教材」は、本当のところない。感覚や好みを伝え合うしかない。
出逢った者の間で模索するしかないことで、そこにはどちらにも忍耐がいる。たまたますごくうまくいったセックスは、アクシデントであることが多い。おそらく再現性はない。
「許可なしのセックスないし性的接触」を「レイプ」という。「関係性や力が上であることを利用したレイプないし性的いやがらせ」を「セクシュアル・ハラスメント」という。
そこで。
「許可がないので、できない」「許可をどうやってとったらいいのかわからない」のが、<草食男子>と言えるのではないだろうか。
これは言うよりむずかしいことである。一触即発で訴えられる可能性もはらんでいる。フラレるだけならともかく、社会生活にまでダメージをもたらす危険がある。
女にも責任がある。
「許可をとるのがとてもむずかしそう」と思うのは、敏感な男たちであり、感性が豊かであり、彼らは確かにやさしい男たちなのだ。そして女にも、女性的な情報空間にも、女を内化して防備している自分にも、おそらく疲れている。
※本稿は赤坂真理著『愛と性と存在のはなし』より、Web転載にあたり編集割愛の上、転載したものである。
赤坂真理◎作家。アート誌『SALE2』編集長。95年に「起爆者」で小説家デビュー。代表作に、映画化もされた『ヴァイブレータ』(講談社文庫)、『ミューズ』(講談社文庫・野間文芸新人賞)、『東京プリズン』(河出書房新社・毎日新聞文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部賞)がある。『愛と暴力の戦後とその後』『モテたい理由』(ともに講談社現代新書)など評論も話題。最新の著書は、『愛と性と存在のはなし』(NHK出版、2020年11月10日刊)。