「捕食関係」に甘く匂う性愛。草食男子が抱える『生きづらさ』とは

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「男/女」と単純に分類しがちな性。だが私たちは、自らの“性”を本当に自覚しているのだろうか──?

そう語るのは、寺島しのぶと大森南朋主演で映画化もされた『ヴァイブレータ』(講談社文庫)、野間文芸新人賞を受賞した『ミューズ』(講談社文庫)、毎日出版文化賞・司馬遼太郎賞・紫式部文学賞を受賞した『東京プリズン』(河出書房新社)など、数々の話題作を世に生み出してきた作家、赤坂真理氏だ。

11月10日に刊行された赤坂氏の新書『愛と性と存在のはなし』(NHK出版)は、セクシュアリティとジェンダーをめぐる言説をあらためて見直し、この社会の「本当の生きづらさの姿」を見つめている。

今回は同書の中から「草食男子」についての赤坂氏の思索を、一部抜粋して紹介する。


草食男子という誤認


「草食男子」の話をしたい。

恋愛や性に消極的な男子、という意味に使われることが多いだろうか。元気がない男と同義にされるなど、ネガティブに使われることも多い。

そもそもは「草食動物のようにやさしく草をはんでいるような男子」というポジティブな意味でつけたと、名付け親のコラムニスト、深澤真紀は語っている。初出は2006年。

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いずれにせよ、一時の流行語であることを超えて、今では定着した感のある言葉だ。

この言葉は単純な事実誤認をはらんでいる、とわたしは思ってきた。簡単な誤認だ。

草食動物だからといって、性に消極的などということはない。まったくない。

肉食動物に捕食される宿命のある草食動物は、個体数を多く保つ必要があり、繁殖期のオスの発情のしかたは半端ではない。交尾する資格を得るためのオス同士の争いが熾烈なのは草食動物だ。

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そこに、いわゆるやさしさや競合相手への思いやりなどはかけらもない。

「草食男子」の特徴とは「狩りをしないこと」。

つまり女性(または女性的存在)にアプローチをかけない、「襲わない」こと。それが「やさしい」ことだという。こういう男性が「やさしい感じがする」のは、認めてもいい。

だが、もう一つ別の事実誤認がある。
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文=赤坂真理

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