毒母と娘とシスターフッド。「度を超えた親密さ」のゆくえ

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度を超えた親密さが招くもの


本作と同じく「女性対女性」で描いた例を挙げれば、新任教師の弱みを握った定年間近の教師が彼女との「関係妄想」に溺れていく『あるスキャンダルの覚え書き』や、特殊な生まれと過去をもつサイコパスが子供を持てなかった女からすべてを奪おうとする『エスター』が思い浮かぶ。

ストーカーにせよサイコパスにせよ、当人がそうなってしまった要因が匂わされつつ、観客だけが気づく危険のサインが前半にあり、それを見過ごしたヒロインは死ぬほどの恐怖を味わい、終盤近くに頼みの綱もプッツリと切れ……という王道パターンがあるため、それぞれプロットに工夫が凝らされて他作品との差別化が図られている。

しかし本作は、ほとんど捻りを効かせない非常にベタなストーカーものだ。

ルームメイトのエリカ(マイカ・モンロー)の忠告も聞かずにバッグを届けるフランシスはいかにも世間知らずで脇が甘そうだし、グレタのひっそりした家の佇まいはいかにも「ノックしちゃいけない」サインを出しているし、最初の訪問中の異音がいかにも「伏線候」だし、巧みに同情と共感を喚起するグレタにフランシスが夢中になる過程も、相手の異常性に気づいたフランシスが距離を取ってからのグレタの追い込みも、愛情と見せかけた異様な執着心の描写も、途中で明らかになるグレタの恐るべき秘密も、全然頼りにならない警察も、「ああ良かった」と思わせておいて絶望に誘うどんでん返しも、ほぼ定石通り。

フランシスを自宅に幽閉して以降のB級センスな畳み掛けはどこかマンガじみていて、思わず失笑が漏れてしまうほどだ。


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筋書きの新しさや現代的な人間像の造形などをあえて切り捨てて、おなじみの展開で作られているにも関わらずこの作品が光っているのは、美術と音楽と女優たちの素晴らしさによるところが大きい。

スチールやガラスの光がモダンで洗練された印象を与えるフランシスとエリカの暮らすロフト。木の家具や古いピアノなどアンティーク調にまとめられたグレタの部屋。端的に「若さ」と「老い」が象徴されている。

グレタの家はキッチンもレトロで素敵だが、このラブリーで暖かい雰囲気が「隠し部屋」では陰惨なムードに反転しており、時間が止まっているグレタの内面を思わせる。

また、定番スリラーをエレガントで格調高いムードにしているのが、全編通じて劇伴に使われているクラシックのピアノ曲。リストの『愛の夢』やショパンの『子犬のワルツ』など、ピアノ曲がドラマの重要な要素となっている。

とりわけ愛らしい印象のある『子犬のワルツ』が、これほどまでに恐怖を掻き立てる使われ方をしている作品は、他にはないだろう。
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文=大野左紀子

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