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2020.12.11

エビ養殖もDX 愛知の県境で見た「地方問題解決」のヒント


政府は農業特区などでこの動きを促そうとしている。正しい方向性だが、もっと思い切った施策がないものだろうか。端的には、一次産業を付加価値の高い二次産業に変えていくことである。そのヒントがS社長のバイオマス発電+海水エビ養殖事業に潜んでいるような気がする。

改革のポイントは二つある。

第一は、縦横斜めに張り巡らされた複雑な規制をスッキリさせることである。例えば養殖業とハウスの水耕栽培では税率が違ったり、農業振興用地では陸上養殖が認められないというのも解せない。

一次産業の六次産業化が叫ばれる半面で、規制は分野ごとに、いくつもの管轄省庁や自治体にまたがって煩雑なことこの上ない。いくらハンコを廃止しても、訪ねる窓口や申請手続きの数が減らなければ意味がない。縦割り行政が一次産業の低付加価値化をあおっている。
 
第二は、二次産業で培ったノウハウを一次産業にフルに生かしていくことだ。農林水産業を近未来の工場に変えていくことともいえる。地面が狭ければ、思い切って20階建ての「農業工場ビル」を建ててしまう。バイオ技術を積極的に導入し、センサー、ロボット、ドローンをICTで結んで、一次産業のDXを徹底的に進めるのだ。

一次産業の付加価値を今の10倍に高めていく。建築・投資コストが高くて割に合わないといわれるが、こうした部分にこそ、巨額の公的資金を注いでよいのではないか。金融面でも思い切った支援を行うべきだ。
 
S社長が夢を語る。「やがて自室をワークステーションにしたい。水の管理や給餌から出荷まですべてデジタル化する。僕は時々パソコン画面を見て、ロボットに指示の信号を送るだけ。スティーブ・ジョブズみたいにシャツと綿パンで過ごせるし、普段は軒先に来たシカと遊んでいればいいんだ。それで収入は今の何倍にもなる。名古屋に移住なんかする必要ないですよ」

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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