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川村雄介の飛耳長目

愛知と岐阜の県境である。あたりは緑濃い山々で人家はまばらだ。桟道のような急坂を上ると、突如、数軒の低層工場と思しき建造物が現れる。バイオマス発電所である。豊かな森林を生かした木材チップによる発電で、固定価格買取制度が魅力だ。

「バイオマス発電は別の事業のためにやっているんです」。真っ黒に日焼けしたS社長がほほ笑む。彼に促されて未舗装の坂を下りると、別の建造物に行き当たる。頑丈なプレハブハウスだ。内部には、直径10mほどの円形の升が20基ほど並んでいる。升には緩やかな流水が循環し、無数のエビが泳いでいる。

「バナメイエビです。メキシコ近海原産の車エビの仲間で、これを養殖して地域ブランドとして売り出しています」。奥深い山中で海水エビの養殖場に遭遇するとは想定外だった。

S社長は、バイオマス発電で利益の下支えを図りながら、エビ養殖を行っているのだが、その特徴は水温管理に発電事業を活用している点にある。バイオマス発電では、副産物として85度ほどの熱湯が生まれる。従来は捨てていたが、これをエビ養殖の温度調節に活用したのだ。環境に優しいエコ事業である。

それにしても過疎の地域だ。明智光秀のドラマで知名度は上がったものの、かつて栄えた陶業は廃れ、若者は名古屋や東京に行ってしまう。人間より野生のシカやウサギのほうが多い。ここでも、地方の衰退が深刻である。

地方は水や空気がきれいで自然も豊か、買い物も車さえあれば不便ではない。物価も地価も安い。子育て環境は都会よりはるかによい。なのに、なぜ都市への人口流出が止まらないのか。国も自治体も地域振興に力を入れてきた。それも半世紀近く前からだ。しかし、効果は上がらない。

根本的な問題は、高付加価値の労働市場が少ないことに帰する。かつて高度成長期には「企業城下町」が栄えた。大企業を頂点にした二次産業の集積が、地域の人々に高い給与を、自治体に潤沢な税収入を与えていた。

だが、グローバル化に伴う産業構造の変化が製造業の海外移転を促し、多くの企業城下町が消えた。殷賑を極めた商店街はシャッター街と化した。一次産業は国際競争力がなく、農地は宅地へそして空地へと荒んでいった。若者は高い収入=高付加価値の職場を求めて都会に移る。

そうであれば、地方問題の解決のカギは「地方にしかできない仕事の付加価値を高めること」に尽きる。つまり一次産業の高付加価値化である。

文=川村雄介

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