心理検査で「無防備さ」明らかに 人を疑わない性格が災いとなった|#供述弱者を知る

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小出君が検査で実施した質問項目で、西山さんの回答を示しながら、獄中鑑定に同席した臨床心理士の女性とともに説明した。

【テスト1】
「君はうそつきだ。君にはそれがよく分かっているはずだ」

【西山さんの回答】
「すみません。とっさに嘘をついてしまいました」


【解説】
「この答えを見て〝あっ〟と思った。これほど自分を守ることができていない人は珍しい。そんなことを言ってしまったら後で自分が不利になって大変なことになるということが想像できていない。この設問の答えで多いのは『私はうそつきではありません』という答え方。同じテストで数百件の事例を見ているが、ほとんどない」(小出医師)「かなり珍しい答え方だと思います」(臨床心理士)

【テスト2】
「学校の前だというのに、時速60kmも出したりして一体どこへ行くつもりですか?」(警察官)


白バイ警官に運転者が答える場面を想定した質問、あなたならどう答えるだろうか(Getty Images)

【西山さんの回答】
「すみません。いつもこれくらいスピード出していても何も言われなくて…」


【解説】
この答えに臨床心理士の女性は「多くの人はこんなふうに罪を認めたりはしないと思います。だいたいが、家族が病気で、とか何か理由をつけます」と話した。小出医師は「自我防衛機能がほとんどない。警察官を相手にこれでは、武器なしで戦うようなもの」と話した。

【テスト3】
「お貸しして頂いた新聞をお返しします。赤ん坊がやぶってしまいまして」

【西山さんの回答】
「(返さなくても)いいですよ。もうやぶれた新聞は使えないので」


【解説】
「あまりにも正直。相手の反応を予測しないままストレートに言ってしまう性格がよく表れている」(小出医師)

説明を聞いた弁護団長の井戸弁護士は「子供並みの防御力のなさの上に、迎合性があったということ。捜査機関の思うがままのストーリーが作られ、簡単に乗せられたということでしょうね。それが良く分かりました」と納得した様子だった。

障害のある人たちが「生きやすい社会」に


そして小出君は、こう言った。

「この冤罪は何としても解かなければいけない。西山さんのためでもあるが、似たような障害のある人たちが、少しでも生きやすい社会になるように。それだけ社会的に広がりのある事件だと思う」

中日新聞では「無実の訴え12年/私は殺ろしていません」という5月14日の初報、「強要されたうそ/自白の『自発性』疑問」という21日の第2報に続いて、28日の第3報「無防備な〝少女〟に再審を」と展開し、全面的に再審開始の決定を求めるメッセージになった。記事を再録する。

【見出し】
西山美香受刑者の手紙㊦発達・知能検査「無防備な少女」に再審を

【本文】
刑務所の面会室。アクリル板越しに発達障害の傾向を見る検査の設問で、精神科医と臨床心理士は、その回答に目を奪われた。「学校の前だというのに、時速60kmも出したりして一体どこへ行くつもりですか?」。白バイ警官に運転者が答える場面で、彼女は「すみません。いつもこれくらいスピード出していてもなにも言われなくて…」と書き込んだ。「家族が病気で、とか何か弁解するのが普通。何とも無防備な答え」「不用意なひと言で、さらに窮地になることが想像できていない」。ともに数百人以上にこの検査をした経験から「自分を守ろうとする意識がまるでない答え」と口をそろえた。

「殺ろしていません」(原文のまま)。350余通の手紙で両親に訴えてきた元看護助手(資格不要)西山美香受刑者(37)=殺人罪で懲役12年、和歌山刑務所に服役、再審請求中=の発達・知能検査を、私たちは弁護団と協力し4月中旬、行った。恩師や家族の取材から、不自然な「自白」に何らかの障害が関係しているのではないか、と考えたからだ。
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文=秦融

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