このような変化が起こった理由として、具体的にこれだと断定できるものはないのですが、おそらく政府主導のスタートアップ支援プログラムによる貢献が大きかったのではないかと考えています。J-Startupなどの政府系スタートアップ推進プログラムのおかげで、スタートアップにもようやく注目が集まるようになり、信用もあがってきました。
この変化はさらに日本の経済市場全体にも波及しました。日経新聞ではスタートアップ取材チームが作られ、事業会社の経営陣の間でも「オープンイノベーション」などが話題に上り、スタートアップとの積極的な連携が検討されるようになりました。スタートアップについての授業をカリキュラムに組み込む大学も増えてきました。
このように様々な界隈で注目されるようになったおかげで、スタートアップがより一般的に知られるようになり、知人や家族からも理解を得られやすくなってきているのではないかと思います。
また、スタートアップ業界の活性化にはINCJやDBJ、中小機構、クールジャパン機構などを介した政府による間接的な資金面での支援も欠かせませんでした。
例えば、2013年後半から2016年前半のおよそ2年間にわたってINCJは531億円をベンチャーキャピタルファンドに出資しました。それまでの日本のスタートアップに対する投資額は全体で年間800億円程度でしたので、このINCJによる投資は非常に大きなターニングポイントとなりました。
以前は、日本のVCは機関投資家から投資対象としてほとんど選ばれることがなく、スタートアップやベンチャーキャピタルには事業会社以外の資金調達先がほとんど残されていませんでした。そのような投資資金が限られている状況では、スタートアップもより野心的な目標を目指すことができず、結果的にイグジットも小さくなってしまっていました。
しかし、INCJが投資したファンドをきっかけに、日本のスタートアップ史上最大級の規模のイグジットに成功する企業が出てきました。そのうちの1つが「日本初のユニコーン」としての快挙を遂げたメルカリのイグジットです。それから間もなくして機関投資家たちが私たちのようなVCに真剣に興味を持ち始めたのも、決して偶然ではないと思います。
海外と比べて圧倒的に競争が少ない
日本のスタートアップ界は確かに大きな発展を遂げてきましたが、まだまだ成長の余地があります。GDPの割合で言えば、日本のスタートアップ投資額は米国や中国と比べてまだ圧倒的に小さいのが現状です。この差は、日本のスタートアップ市場の成長ポテンシャルの大きさ、そして競争の少なさを示しています。