テクノロジー

2020.12.11 19:00

あの時の新発明はどこに行ったのか?

ターンテーブルに載せたソノシート(vvoe / Shutterstock.com)

今はなき「朝日ソノラマ」を古書店で見つけて、思わず買ってしまった。

通常の紙のページの間に、ビニール状の薄いレコード(ソノシート)が挟みこまれていて、本文の朗読や紹介された音楽などを聴けるようになっている、絵と音の「マルチメディア」雑誌だ。1959年という、民放各局が放送を開始し、「少年マガジン」や「少年サンデー」が出され、ニコンFやエレクトーンも発売された、戦後が高度成長に転じる頃に創刊されたものだ。

「三種の神器」と呼ばれた家電たち


このレアな雑誌をめくってみると、今では見ることのない貴重な商品の広告にも行き当たる。回転するレコードとセットの体裁のせいか、ステレオやテレビの家電製品やタイヤの広告がいやに多い。

その中で、一瞬見過ごしそうになるレコード・プレーヤーのような写真があった。見た目は普通のプレーヤーなのだが、“レコードをかける手軽さで 録音! 再生!”とキャッチが書かれており、商品名は「ビクター・マグナファックス」とある。

説明を読んでみると、通常のレコード盤の形をした磁性体(マグネティックディスク)にレコード盤のような溝が彫ってあり、それを回転してレコード針の代わりに磁気ヘッドを付けたピックアップでなぞり、録音再生を行う機械のようだ。

テープレコーダーのテープを円盤状にして、レコード盤の溝を付けただけだが、レコード盤と動作は同じなので、磁気ピックアップを通常の針のタイプに取り換えれば、レコード・プレーヤーとしても使えるという、なかなかのアイデア商品だ。テープレコーダーではなく、ディスクレコーダーとでも呼べそうな製品だ。

録音したディスクは通常のコンパクト盤と同じサイズで、レコードの棚に同じように自分の好きな写真やイラストを描いたジャケットに入れて並べておけるし、飽きたら磁石(消磁器)で表面をなでると、再度使えるという。

調べてみると米Timex社が1954年に同じような磁気ディスクレコーダー(Magnetic Disc Recorder)という製品を発売しているので、こうしたものをベースに日本で作られたのかもしれない。

この商品は残念ながら記憶にないのだが、同じ頃にキヤノンが作った書類の裏に磁性体を塗っておき、書類の内容を読み上げた声や他のデータも入れ、プレーヤーを通すと再生される「シンクロリーダー」と呼ばれる事務機があったのは知っている。ビジネス向けに売られていたが結局は成功せず、この開発にあたった技術者が電卓開発に異動させられたと聞く。

ともかくこの時代は経済復興が軌道に乗り始め、家電を使うことが豊かさの象徴のように考えられ、まずは電気式の炊飯器や掃除機が普及し、次に白黒テレビと洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」としてもて囃された。当初のテレビは9万円ほどし、現在の物価に換算すると50万円を超える高価なものだったため、多くの人はまだ駅前などの公の場所に設置された「街頭テレビ」で観るしかなかった。
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文=服部 桂

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