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10月9日から11日に開催された「スーパー耐久第2戦 SUGO3時間レース」。フリー走行が始まってまもなく、「GRヤリス」はクラッシュした。

ピットに車両が戻ってきた。メカニックは即座に持ち場で作業をはじめ、ドライバーやチームメートも手伝いはじめた。エンジニアはメカニックの作業をサポートした。全員が「絶対にクルマを直す」という使命のもとに、同じ方向を向いた。

3時間半後、マシンは修復作業を完了した。この間、章男は、その場から一歩も離れず、ピットでチームの動きの一部始終を見ていた。章男は、11年前に社長に就任して以来、「現場にもっとも近い社長になりたい」と、訴えてきたが、まさにその実践である。

「黙ってみていたのは、僕くらいで、本当に感動しました」と、章男は語っている。

失敗の原因は道具ではなく、自分自身だ


レースの現場は、過酷だ。つねに限界を試されるレースという舞台で、メンバーは真剣勝負に挑まざるを得ない。己との厳しい闘いを強いられる。

かつてイチローは、章男にこう語ったことがある。

「僕は、バットやグラブの手入れを怠らない。失敗の原因を道具ではなく、自分自身に向けるために」

イチローとバット
2019年3月、東京ドームで開かれたMLB開幕戦に向けて、練習日にバットの準備をするイチロー。同月、現役を引退した (Getty Images)

イチローが己を見つめ、己を鍛え続けるがごとく、レースという舞台でもまた、真剣なカイゼン活動が繰り広げられている。その先にあるのは、「もっといいクルマづくり」だ。

イチローが打つことを当たり前に求められる厳しい世界で四半世紀以上も闘い続けてきたように、章男も、36万人の従業員の思いと責任を背負い、「100年に一度」の大きな変化と闘い続けている。

イチローと章男の間には、当人同士だけが知る深い共感がある。孤高の天才バッターと日本を背負って立つ孤独な経営者は、ともにプレッシャーを乗りこえて前に進まなければならないという重圧を背負っている。チームや組織のなかにあっても、いわば「孤軍奮闘」の立場にある2人。アスリートと経営者の間には、とてつもなく近いものがある。

ただ、イチローと違って、章男が経営の舞台からおりるのは、まだ先である。


*特別連載「深層・豊田章男」、次回は12月26日にお届けします。

文=片山修

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