漂流する妊婦たち──妊娠葛藤相談から「アフターピル市販化」賛否に思うこと

緊急避妊薬へのアクセスの悪さは、どのような問題を含むのか(shutterstock)

性交から72時間以内に服用することで妊娠を防ぐ可能性が高まる、緊急避妊薬(アフターピル)。現在は医師の診察を受け、処方箋がないと手に入れることができないが、これを処方箋なしで薬局でも購入できるようにするべきかどうか議論が活発になっている。

これに対し、10月22日、日本産婦人科学会の木下勝之会長が記者会見を行い、処方箋なしでの薬局販売への反対意見を述べた。理由として、緊急避妊薬に対する女性の知識不足、性教育の不備、濫用の不安、産婦人科だけでない他科診療でも手に入る仕組みができること、などを挙げ、「時期尚早」とした。しかし、避妊の失敗や性暴力などによる妊娠を防ぐのは、時間とのたたかいだ。

実際、産婦人科医や、性暴力被害者支援、虐待やDV相談など、望まない妊娠についての相談を受ける現場からは、その「アクセスの悪さ」を指摘する声が相次ぐ。

ちょうど、妊娠葛藤相談の窓口を運営するNPO法人ピッコラーレが「project HOME(以下、HOME)」という、居場所のない妊婦のための事業を開始し、彼らを受け入れる“家”を開設したというので取材した。

ピッコラーレ代表の中島かおりさん、事務局長の小野晴香さんに、「医療システムの中での妊娠出産」だけでは見えてこない女性たちの話を聞いた。妊娠を取り巻く女性たちの葛藤、背景や課題など、「相談」を通して見えるものはなんだろうか。

性の悩みを誰にも相談できず、孤立する若者たち


ピッコラーレが運営する妊娠葛藤相談窓口「にんしんSOS東京」に寄せられる相談内容は多岐にわたる。大きく分けると、(1)妊娠が判明する前の相談、(2)妊娠が判明してからの相談、(3)中絶についての悩み、(4)妊娠継続を決めた後の出産や育児に対する悩み、に分類されるという。

このうち約65%が(1)で、避妊に失敗したかもしれない、生理が遅れている、妊娠したかもしれないという妊娠不安の相談だ。これは全年齢通して圧倒的に多い。特に10代では8割を占めるという。ピッコラーレ代表の中島さんはこう指摘する。

「10代での妊娠というと、性教育が足りないとよく言われます。確かに性教育が不十分とは事実ではありますが、不十分な中でも、彼らは一生懸命情報を探し、知ろうとします。彼らなりに学ぼうとしている。でもその方法が、ネットなんですね。嘘や不正確な情報に触れ、もっと悩んでしまったり、たとえ正しい情報に触れても、それが自分の場合に当てはまるのか、混乱し、私たちの窓口に繋がってきます。相談は、女性だけでなく、男性からもあります」
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文、写真=矢嶋桃子

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