急逝した稀代の起業家、ザッポス創業者46歳の「早すぎた伝説」

ザッポス元CEOのトニー・シェイ(Photo by FilmMagic/Getty Images)


シェイは1995年にハーバードを卒業し、オラクルに就職したがわずか5カ月で辞めて、1996年にアドネットワーク事業を手掛ける「LinkExchange」を共同創業した。その後、1998年に同社をマイクロソフトに2億6500万ドルで売却した。

ベンチャーキャピタルのNeoの創業者でCode.orgの共同創業者でもあるAli Partoviは、LinkExchangeの創業メンバーだった。Partoviは次のように話した。

トニーの提案は、従来のアプローチとは真逆のことが多かったが、大抵の場合は彼が正しかった。LinkExchangeでは、カスタマーサービスがコストの大半を占めていた。通常はカスタマーサービスを縮小してコストを削減しようと考えるものだが、トニーは逆により多くのコストを費やそうと考えた。

彼は、カスタマーサービスは事業拡大に必要なマーケティング投資だと捉えていたのだ。彼のこの考えが、後のザッポスに活かされたのだろう。

トニーは創造力に溢れ、突拍子もない発想から天才的な名案まで、アイデアが絶えることなく湧き出てくるようだった。彼の発想は、型にはまらない自由なものだったが、実現するとすぐに飽きてしまい、他人がその可能性の大きさに気が付いた時には、もう次のアイデアに取り組んでいた。

「人々を笑顔にする」というミッション


シェイは、LinkExchangeの売却で得た資金を元手に、「Venture Frogs」というベンチャーキャピタルを立ち上げた。同社の出資先の一つが靴のECサイト「ザッポス」で、後に彼は同社のCEOに就任し、2009年にアマゾンに12億ドルで売却した後も、経営に関与した。

Long Journey Venturesのパートナーを務めるCyan Banisterは、ザッポス時代のシェイについて次のように語った。

トニーは、いつもザッポスのTシャツを着ていた。彼はどんな服でも買うことができたのに、ザッポスのTシャツを穴が開くまで着ていた。また、ザッポスの経営者でありながら、彼自身はそれほど多くの靴を持っていなかった。最低限のものしか身に着けず、身なりはいつもシンプルという点は、彼の最も愛すべき点の1つだった。

トニーは、人々に笑顔と幸せを届けることを人生のミッションにしていた。ある時、私がラスベガスを訪れると、彼は私に地元のポッドキャスト番組への出演を依頼してきた。収録に行くと、彼は「サプライズがあるんだ」と言って2匹の可愛いペンギンを見せてくれた。番組の間、ペンギンたちは机の上を行ったり来たりしていた。動物園のスタッフも同席してペンギンの世話をしていた。

その後、彼はペンギンをバーに連れて行き、安全を確保しながら多くの人に披露していた。人々は、ラスベガスにペンギンがいることをとても驚いていた。

シェイは、私のためにザッポスのオフィス見学ツアーを4回実施してくれた。私は、回を重ねるごとにより多くの人を同行させた。オフィスに入ってまず気づくのが、社員たちが皆快活で幸せそうであるということだ。私がシェイにその理由を尋ねると、彼は、「簡単だよ。笑顔の人しか採用しないからだ」といたずらっぽく答えた。彼は、人から職業を聞かれると、必ず「私はザッポスに勤務している」と答えていた。
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編集=上田裕資

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