ビジネス

2020.12.09

ベトナムの「巨大な街づくり」から見えるビジネスの要諦

ビンズン省庁舎を中心に、住まいや公園、学校、ショッピングセンターなどが続々と建設されている。


──日本で多様性を重視するには、どのようなことが考えられますか?

例えばシニアや中途、他業種の方や外国人を積極的に雇う、子育てから復帰するママやパパが働きやすい環境を作る、まったく違う部署の人の意見を取り入れられるような仕組みを作るなどが考えられます。

ハンドリングは少し大変ですが、多様な人を許容し、何事にも寛容になることで、イノベーションを起こせると実感していますし、今後日本の労働者人口が減っていくことを考えると、なおさら必要なファクターになるのではないでしょうか。また、そういう働きかけをしていると、もっと人のプリミティブな心の機微や感情にもフォーカスしていけると思います。

──具体的にはどういったことでしょうか?

お客様の笑顔ですね。「そんなの当たり前でしょ」と思われるかもしれませんが、私はベトナムへ来てから、よりお客様の笑顔にフォーカスするようになりました。常に多様性を認めながら、混沌としている状況でプロジェクトが進んでいくので、プロセスはもはやどんな形でもよく、お客様の最高の笑顔を引き出せたか、という結果をより重視するようになりました。

日本にいる時も、もちろんお客様の笑顔を最大化することに努めていましたが、どこかテクニックに走るというか、策に溺れるというか、プロジェクトのクオリティや状況的な満足に、一喜一憂していたような側面があったように思います。


街を走るべカメックス東急バス。ベトナム初となる外資民間運営の公共バス、精度の高い日本式の運行ということで期待が集まる

──巨大な街づくりから見えてきた、これからの日本に必要なビジネスのエッセンスはありますか?

街づくりは10年、20年、それこそ100年を見据えて行う長期的なものなので、マクロな視点でグランドデザインを描く必要があります。かたや、住民の方々の生活に不備がないように、もの凄く短期的な問題解決に迫られることもある。100億円のプロジェクトから100円のたいやきまで、同時進行で、同じくらい重要なことだったりします。

長期・短期、大きい・小さいは関係なく、時に時空を超え、時に規模に囚われず、しかも多様な価値観を認め合い、複雑なハンドリングを行いながら、ビジネスを推進していく。時間、規模、場所、人種、プロセス、何にも偏らず、常にそれらの中庸を見極め、ベストプラクティスを追求していく中で、より本質的なことが炙り出されます。振り幅が大きく、人々の生活に密接な分、より鮮明に見えてくる。それこそお客様の最高の笑顔や、その質の高さですよね。

ネットやAIの発達で、素晴らしいソリューションが次々に生まれ、より効率的にビジネスが進められるようになりました。しかし、その美しく効率的なプロセスやアウトプットに踊らされたり、溺れてはいないか、本当の意味で人々に喜んでもらえているか、想いが心の奥底まで届いているか。こうした本質的に大切なことを、しっかりと腹落ちさせながらビジネスを行う、原理原則に立ち返ることが、今後ますます重要になってくるのはないでしょうか。




平田周二◎べカメックス東急 Executive Director。早稲田大学卒業後、東京急行電鉄(現 東急)入社。2011年にベトナム事業立ち上げに参画し、翌年からベトナムに赴任。ビンズン省にて巨大な街づくりを行う。青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(MBA)修了。

連載:クリエイティブなライフスタイルの「種」
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文=国府田淳

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