タンザニア人が教えてくれた、遊びを楽しむ「デジタル共有経済」

立命館大学大学院先端総合学術研究科の小川さやか教授

香港に滞在するタンザニア人の中古車ブローカーの研究をもとに執筆した著書『チョンキンマンションのボスは知っている──アングラ経済の人類学』で、河合隼雄学芸賞と大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞した立命館大学大学院先端総合学術研究科の小川さやか教授。

小川教授が研究する、資本主義社会における贈与と分配の仕組みとは──。


──新著では、香港に住むタンザニア人による「TRUST」というシェアリング・エコノミーのプラットフォームが描かれていましたが、どのような仕組みでしょうか。

TRUSTは、香港在住のブローカーとアフリカに住むバイヤーが参加するSNSのグループチャットで、中古車の商品写真や価格をシェアしてより高い値段を付けた人に売却先を決定するインフォーマルな交易の仕組みです。お金が足りなければクラウドファンディングの仕組みで仲間から資金を募り、それで得た利益を出資額に合わせて分配する仕組みもあります。

TRUSTが面白いのは、評価経済の仕組みを使わない点です。Amazonのカスタマーレビューのような、過去の経済パフォーマンスを評価して格付けすることはしません。

香港の経済もアフリカの市場も投機的で変動しやすく、今は羽振りがよくても1週間後にはすっからかんになってしまい、追い詰められている可能性もある。過去の経済パフォーマンスが未来の経済パフォーマンスの根拠にならないのです。参入業者の制限もありません。SNSには商品情報だけでなく、中華料理や個人の写真も流れてきてカオスな雰囲気です。

数値による評価経済のプラットフォーム・ビジネスでは、業者は信頼できて当然だというのが前提です。あらかじめ参加できる人が選定され、ユーザーの格付けシステムを駆動して信用の不履行を起こした人や起こしそうな人を排除します。安定的ですが排他的で、失敗や裏切りをしたら排除するという脅しをすることで、あまり裏切られることがない世界をつくっているといえます。
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文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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