タンザニア人が教えてくれた、遊びを楽しむ「デジタル共有経済」

立命館大学大学院先端総合学術研究科の小川さやか教授


一方、タンザニアの人たちが生きているのは投てき的(釣り堀的)なコミュニケーションです。困ったりアイデアを思いついたりしたら、Twitterのようにネットワークに投げる。あとはひたすら待つ。たまたまついでにやってくれる人、助けてくれる人がいたら幸運だという感覚です。誰にも返答しなければ自分のフォロワーが増えないので、自分の気が乗ったときには返事をしようというインセンティブが働きます。

能力も価値観も多様な人を相手にしている社会にはそのようなコミュニケーションが多い。両方にメリット、デメリットがあるので、回っていけばどちらでもいいのです。

──人類学の研究から何を学べるのでしょうか。

私は多様な選択肢があることが重要だと思います。人類学がいまある社会を大きく変化させる必要はないと思いますが、社会の主流の考え方が一つしかない場合にオルタナティブの方法を付け加えられたらいい。

もちろんタンザニアの社会に問題がないわけではないです。そのようなオルタナティブがあることを知っておけば、選択肢が増える。

いまアフリカではインターネットの普及でインフォーマル経済と呼ばれていたものがギグエコノミーとして花開きつつある。先進諸国では普及しづらかった新しい雇用形態への抵抗も少なく、新しいテクノロジーも普及しやすい。そこでは、これまでにないテクノロジーの活用法や、そのテクノロジーに自前のセーフティネットや助け合いの力を接続させるさまざまなアイデアを教えてくれるのです。


おがわ・さやか◎1978年、愛知県生まれ。信州大学人文学部卒、京都大学大学院博士号取得。2019年より現職。タンザニアの路上商人を描いた『都市を生きぬくための狡知──タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』でサントリー学芸賞受賞。

文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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