タンザニア人が教えてくれた、遊びを楽しむ「デジタル共有経済」

立命館大学大学院先端総合学術研究科の小川さやか教授


一方で、タンザニアの商人はその時々で信頼できたりできなかったりするものだ、という発想に立っています。その時々のユーザーが置かれたシチュエーションを見ながら、賭け事として取引相手を選択することになります。SNSは嘘や誇張に満ちあふれているので、見極めに失敗して裏切られることもよくあります。

しかし、裏切られても状況が変われば同じ人を信じることもできるし、裏切られて一文無しになっても、そういう人を助ける人がいます。失敗はたくさんするけど、排除されずに次を狙える仕組みなのです。

──どのように信用できる相手を見極めるのですか。

大事になるのが実は彼ら自身の日常生活の写真です。日々、SNSには個々の商人のつぶやきや写真、動画などが投稿されています。ブランド品の服を着ている写真をアップして「あいつは最近羽振りがいいのでは」とか「香港人の彼女がいるから高飛びしないだろう」とか思わせたりもします。

ただ、この社会で信用してもらうのに一番効力があるのは困っている人への親切です。他者に親切にする金銭的・精神的な余裕があり、良い人間だという評判を維持しないといけない。過去は評価の根拠にならないので、毎日SNS上で自身の喧伝をしたり、毎日ちょっとした親切をしたりすることで、経済を回しているのです。

誰かに親切にしてもその人に見返りは求めません。親切にすることが「もしかしたらお互いの経済利益になっているかも」というふうに思うことで、一回の助け合いそのもので帳尻を合わせるのに気にしなくてすむのです。

セーフティネットを築くとき、2つのコミュニケーションのタイプがあります。

例えば日本で多いのは「あなたが私を助けてくれた、私もあなたを助けてあげる」という貸し借りの関係や、コミュニティをつくってみんなで順番に役割を負って貢献して均等に利益を得るという「キャッチボール型コミュニケーション(輪番型、均等貢献型)」です。信用は築きやすいけれど、期待に応えられないと「私だけが損している」「あいつだけが得している」という不満がまん延します。

そう思われないようにきっちりやると、息苦しくなってしまう。同じような能力や価値観を共有する同質的で固定的なメンバーシップではうまくいくでしょう。
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文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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