五十肩に悩む医師の針治療体験記 痛みが2割に軽減

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プラセボ効果も否定できない


米国立医学図書館データベース(PUBMED)を用いて、鍼の論文を検索してみた。タイトルに「鍼」と「ランダム化」という単語を含む論文を検索したところ、なんと1336報もヒットした。特に2000年代以降は急増している。

「ランダム化」と入れたのは、どのくらいエビデンスレベルが高い臨床試験が実施されているかを知りたかったからだ。臨床研究でもっとも信頼度が高いのは、患者を従来の標準治療と新薬や新規治療へ無作為に割り付けるランダム化試験だ。

このことから、鍼治療のランダム化試験が大量に行われていることがわかる。そして、その成果を専門誌が掲載するのだから、医学界の関心も高まっていることになる。

さらに「鍼」と「ランダム化」に、「五十肩」をキーワードに加えて検索してみた。すると、6つの論文が残った。このうち、ドイツからの報告が筆者の参考になるものだった。この研究では、保存的治療と比較して、鍼治療群で痛みは有意に軽減していた。

もちろん、このような研究を実施する医師と参加する患者は、鍼治療の効果に期待を寄せている。鍼治療は薬の臨床試験と異なり、厳密な意味での「盲検化」は不可能だ。「盲検化」とは、ランダム化試験において、医師も患者もどちらの「群」に割り振られたのかわからないようにすることだ。

薬の臨床試験では、プラセボを用いるのだが、鍼治療でのプラセボは「シャム手術」などの特殊な方法があるものの、実行は困難だ。筆者の状態が改善したのは、プラセボ効果を反映している可能性も否定はできない。

鍼の臨床研究は、まだ始まったばかりだ。どのような患者に、どう対応すべきかなど、きめ細かい検証が必要だろう。ただ、そのことを考慮しても、世界の多くの研究者が、鍼治療の効果に期待していることは間違いない。

グローバル化が進み、中国の医学が世界に普及している。ところが、私が医学教育を受けた1980~90年代には、まだ中国は途上国で、その伝統的な医療も評価されていなかった。

このままでは、折角、私の外来に来てくれた患者さんに、東洋医学も含めた治療の選択肢を提示できないことになる。今回の鍼治療は、自らの不勉強を痛感するいい経験となった。東洋医学についても、一から勉強したいと考えている。

連載:現場からの医療改革
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文=上 昌広

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