五十肩に悩む医師の針治療体験記 痛みが2割に軽減

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3回の鍼治療で痛みは2割に


そんな姿を見て、筆者が主宰する医療ガバナンス研究所の女性スタッフが鍼治療を勧めてくれた。中国の上海出身のスタッフである朱旭瑾さんの紹介で、彼女たちが通っている鍼灸院で治療を受けることになった。彼女たちの症状は、腰痛から体調不良までさまざまだが、全員が「とても効く」と言う。

1993年に筆者は大学の医学部を卒業した。当時、医学部のカリキュラムには東洋医学は含まれておらず、漢方薬の処方などは卒業後に先輩から教えてもらった。東洋医学に関しては、いまに至るまできっちりと勉強したことはなく、あくまで聞きかじりだ。

外来の患者に東洋医学について質問されることがあるが、「よくわからない」と筆者は回答することにしている。かねてから、どちらかというと怪しいイメージを抱いており、積極的に勉強することもなかった。

ただ、五十肩の痛みを慢性的に抱え、そうとも言えなくなってきた。溺れる者は藁をも掴む。筆者がスタッフの紹介で受診したのは、「Sai鍼灸高輪」という鍼灸院だ。医療ガバナンス研究所からは徒歩で3分ほどだ。

鍼灸院に入ると、院長である崔美淑先生の挨拶を受けた。日本語が流暢で、優しそうな女性。ひと通り診察すると、崔先生は「3回の治療でずっと楽にしましょう」と言ってくれたのだが、これまで、数カ月、肩の痛みに悩まされていた筆者は、すぐにその言葉を信じることができなかった。

鍼治療は初めてだったので、痛いのではないかと不安だったが、崔先生は丁寧に説明しながら、どんどんと鍼を打っていく。彼女によれば、筆者は肝臓から心臓にかけて悪く、その影響が左肩に出ているという。東洋医学の基礎的な素養がない者としては、ただ頷くしかない。

両親とも高血圧で、祖父は脳卒中で亡くなった親族の病歴を考えれば、動脈硬化性疾患のリスクが高いことは自覚していた。親族の病歴について、問診票には書かなかったのだが、崔先生が筆者のリスクについてはっきりと指摘したのには驚いた。

初日は合計で70本ほどの鍼を打って、治療を終えると、心持ち痛みがとれ、動きやすくなった気がした。筆者はプラセボ(偽薬)効果と考えた。

次は1週間後だった。崔先生は、初回とは異なる場所に鍼を打った。曰く、「最初から患部にはアプローチできないので、今日からが本番」とのことだった。2回目の治療を終えたあと、肩の痛みはさらに軽快したように感じた。

筆者が驚いたのは、その1週間後に受けた3回目の治療のあとだ。明らかに肩の痛みが軽減し、それまで出来なかった剣道の素振りが、やや痛みを伴うものの可能になった。筆者は中学から大学まで剣道部に所属し、いまもときに素振りの真似事をするが、五十肩を発症して以降、痛みのため素振りはできなかったのだ。

初診時に言われたように、3回の治療で肩の痛みは改善した。完治とは言えないまでも、痛みは治療を始める前の2割程度だ。さすがに、鍼の効果を認めざるを得ない。
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文=上 昌広

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