グレッグ・コッカリ(67)は胸が張り裂ける思いだった。6月初め、新型コロナウイルスのパンデミックのさなか、コッカリがCEOを務めるオンライン学習プラットフォーム「Udemy(ユーデミー)」が絶好調な一方で、何千万もの人が職を失っていたからだ。コッカリは言う。
「失業してしまった人たちのことが気がかりです。必死に頑張っている人を応援していきたい」
Udemyは15万ものオンライン講座を公開している。多くは受講料が10〜20ドル(約1000〜2000円)で、現在それらに多くの失業者が殺到している。5月単独の新規受講者は前年同月の900万人から2500万人へと大幅に増加。1人あたり年額360ドルの定額制の法人向けサービスも、アディダスやトヨタ自動車など大手企業からの需要が高まっている。
特に人気の講座は「Zoom ビデオ会議の活用事例」や「バーチャルチームの管理術」だ。コッカリによれば、2020年3〜5月期の売り上げは前年同期の2倍になった。Udemyの財務状況に詳しい関係者は、コロナ禍による需要の高まりによって今年の収益は4億ドルを上回る見通しだと話す。予定していた海外展開のための投資と200人の新規雇用計画を実施しなければ、黒字すら見込める。
グレイのTシャツを着たコッカリは、サンタモニカにある1920年代のスペイン・コロニアル風の自宅の寝室でUdemyの経営にあたっている。2019年初めに同社CEOに就任して以来、月曜日はたいてい午前6時半発の飛行機に乗ってサンフランシスコの本社かデンバー、ダブリン、アンカラ、サンパウロ、インドのグルガオンにあるオフィスのひとつに向かっていた。だがいま、彼の生活は一変した。まるでUdemyでオンライン講座を配信しているようだ。
「昨日もZoomで10時間もミーティングをしました。ラップトップを壊したくなりましたよ」と、コッカリは不満気だが、新型コロナウイルスによる世界的な外出自粛で、Udemyが恩恵を受けているのは間違いない。幼稚園から高校、大学に至るまで四苦八苦しながらオンライン授業に取り組んでいるなか、「オンライン学習のマーケットプレイス」のパイオニアであるUdemyは、自社のビジネスモデルを貫けばよいのだ。
同社のプラットフォームが提供するコースには教育機関から認定されていないものもあるが、講師たちはそれぞれに工夫を凝らした授業動画を配信し、Udemyのメッセージボードで受講生からのEメールの質問に答える。通常、同社の収入となるのは受講料の50%。ユーザーは星の数やレビューで講座を評価するしくみだ。
創業者で取締役会長のエレン・バリ(36)はトルコ南東部の貧しい村で育った。Udemyのアイデアが生まれたのは、インターネットで学びながら数学を追究していたとき。優秀なオンライン講師には、素晴らしい学位も資格も必要ないはずだと考えた彼は「世界中のどんな専門家でも自分の講座で教えられるオンライン学習のマーケットプレイスを運営したい」と、07年にトルコでUdemyの“ライブ配信版”を立ち上げた。
これは失敗に終わったが、バリはシリコンバレーのオンライン・デートサイト「スピードデート」にエンジニアとして引き抜かれた。