プロスポーツクラブを持つだけではなく、スタジアムと街を作る。そして、スタジアムとアリーナ、商業施設を複合的に連携させる、2018年に始動した次世代のスタジアムのあり方を具現化する長崎スタジアムシティプロジェクトは、社員も半信半疑のなかでのスタートだった。しかし、基本設計を進める過程で議論を深めるうち、目指すものは次第に明確なものとして共有されてきた。
総工費700億の巨大プロジェクト
18年度末、長崎県長崎市幸町を拠点にしていた三菱重工長崎造船所幸町工場が閉鎖。三菱重工は長崎を盛り上げる新たな街づくりとして再開発する方針を固め、そのコンセプトに手を挙げたのが長崎県佐世保市に本社を置き、通販事業を展開してきたジャパネットホールディングスだった。
ジャパネットホールディングスは17年に経営赤字が続いていたV・ファーレン長崎を100%小会社化。クラブを立て直し地元に元気を与えるという命題に立ち向かうストーリーは24年完成に向けて動き出した、長崎スタジアムシティプロジェクトとして新展開を迎える。
19年にはスポーツ地域創生事業を担うリージョナルクリエーション長崎を設立。社長にはジャパネットホールディングス代表取締役社長でCEOの高田旭人が兼務で就任。取締役は佐世保出身の岩下英樹。「想像の域を何倍も超えたスケールの取り組みに最初は驚きました」と語る岩下は「でも、自分が育った長崎の街のことを考えてみると、とてもしっくりくるものがありました」と続ける。
根底に流れる、純粋な思い
スタジアムができるきっかけは課題解決があってこそ。スポーツ大国の米国での多くの事例を考えると、そこには貧困、土地開発、そしてチームを引き留める“目的”が見え隠れする場合が多い。だがこの長崎に生まれるスタジアムシティプロジェクトの根底には、もっと純粋な思いがあると岩下はいう。
「ジャパネットたかたは、通販事業の中で良いものを見つけて徹底的に磨き上げ、さらに良くして世の中の人に伝えてきた。この視点に立ち返るなら、モノだけでなく街や地方にも磨かれていない部分、そして伝わっていない部分はまだまだある。スタジアムシティプロジェクトは長崎を磨き上げるものなのです」
スポーツ、スタジアム作り、地域創生に関しても素人同然のスタート。国内視察だけでなく、社員研修旅行でトッテナムの新スタジアムの視察も敢行。稲佐山公園の指定管理を得て、地域創生の取り組みも行っている。初経験の設計や施工はJLLグループなど数社のプロとともに取り組む。だが“長崎らしさ”のアイデアを提供するのはリージョナルクリエーション長崎の役割だ。実際にそのスタジアムを使用するV・ファーレン長崎の社長を務める高田春奈は「プロスポーツクラブが地方にある意義」を強く訴える。