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2020.12.04

SMALL GIANTSの街って何? 新連載・FJ編集長のコラボコラム

ものづくり体験・体感施設「みせるばやお」での子供向けワークショップ


錦城護謨の太田泰造社長と何度か話す機会があり、「住めば都」に心境が変化する理由が見えてきた。ドラマや映画には「設定」が必須のように、社長や従業員が自分の人生を面白くするにはやはり設定がポイントと思えてきた。ドラマ風にいうと、こうだ。

・舞台(八尾市という町)
・時代設定(現在。八尾では経営者の世代交代が同じ頃に重なった)
・登場人物の役割(経営者や従業員)
・ドラマの核心部分(登場人物の成長)

“割れないグラス”誕生秘話


人口約26万人の八尾市は明治時代以降、綿糸生産で栄えたが、その後、木綿の生産が衰退すると、地場産業としてブラシや撚糸の製造業が盛んになる。いわば古い産業であり、中小規模の工場が多い。家業の跡継ぎを父親に頼まれても、進学や就職で大都会に出ていった若者は未来の見えない産業に戻りたいとは思わない。

太田泰造社長も三代目だが、事業の5割を占めていた携帯電話のゴム部分がガラケーの消滅、そしてリーマンショックによって、売上げが30億円から3億円までに激減した。しかし、「秘伝のレシピ帳」というものがあり、数十万通りのゴムをつくるノウハウがあるという。

「皆さんのご家庭にも当社が製造したゴムがあります。例えば、炊飯器の内蓋のゴムパッキンです」と太田社長が言う通り、自転車のブレーキに使うゴムから口腔商品、スイミングキャップなど多種多様で、消滅した携帯電話から多種多様に広げ、特に医療や福祉関係でシェアを伸ばしていく。福祉は屋内の誘導ブロック、医療では内視鏡などだ。

こうしてドイツのデザイン賞など、海外でデザイン賞を次々と獲得し、ついに2020年、話題となる商品を完成させる。部署を横断して有志たちで開発した「シリコーングラス」だ。



透明のガラスコップにしか見えないゴム製グラスは、色を抜く技術が難しく、研究を重ねたという。これまでいろんな商品を支えるゴムづくりを担ってきた会社だが、従業員の人たちが「見える錦城をめざしたい」と、開発に情熱を傾けたという。

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メディアやSNSでこのコップは話題になったが、一通り、太田社長の話を聞いた私はこう言った。

「ゴムをつくる会社ですけど、人をつくる会社ですね」

社員が仕事に打ち込む姿に、そう思えたのだ。実はこうした話は錦城護謨だけではない。
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文=藤吉雅春

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