カマラ・ハリス次期副大統領の服をつくった日本人パタンナーの算段

写真=曽川拓哉


ブルックリンの安アパートで、男4人での共同生活を始めた。ある日ルームメイトの1人が「僕の友達が、服づくりができる人を探している。よかったら手伝ってあげてもらえないか?」と聞いてきた。大丸は100ドルほどの安いミシンを買って、英語を教えてもらうという約束で、初めて異国でパタンナーとしての仕事を得る。


初期の頃の服づくり(写真=本人提供)

大丸がつくった服を見て、手伝ってあげた友達は感動した。こんな完璧な服づくりができる日本人がいるなんて、と。口コミで、大丸の噂はあっという間に広まり、たくさんの仕事が舞い込んできた。くるものは拒まずで注文に応じているうちに、今度は大丸は指名されて仕事を依頼されるようになる。大丸の実力は、世界のトップデザイナーが認めるまでになっていた。

OVERCOAT立ち上げ


パタンナーとして年間2000着の服をつくる一方で、彼はデザイナーとしての夢を実現することも考えていた。いまでこそ性別関係なく着られる「ジェンダーレス」がファッションの1つのトレンドになっているが、大丸は学生の頃から、そのようなもっと自由な服がつくれないかと考えていた。

OVERCOATは、彼がパタンナーとして何万人もの体のサイズを測って、自身の身体に刻み込んだ何万というビッグデータから、「最適解」を編み出してつくった奇跡のブランドだ。どんな大男でも小柄な女性でも着こなせるようなデザイン。それを可能にしているのが、OVERCOATだ。


ジェンダーレス、エイジレス、サイズレスのデザイン(写真=OVERCOAT)

布を羽織った時、その中心がセンターバックネック(肩と肩を結んだ中心線)に揃っていれば、誰でも美しく纏うことができる。大丸はパタンナーとしてこのことをよく知っているからこそ、シンプルで美しい構造を保ったまま、着心地のいいコートをつくっている。


オーニングの素材を使ったコート(写真=OVERCOAT)

ブランドのコンセプトは、「Wearing New York (ニューヨークを着る)」。ニューヨークの街を歩いていると、至る所でオーニング(カフェやデリカテッセンの軒先に掛けられている天幕)を見かける。

時にはスペルミスがあったり、ド派手な色を使っていたりするが、マテリアルには雨風に強い布を使っている。これを使ってコートをつくれば、防寒性に優れた服が出来上がるのではないか。ニューヨークでの大丸の日常生活から、唯一無二のアイデアが生み出されたのだ。

MADE “BY” JAPAN


OVERCOATの服は、すべて日本人によってつくられている。ブランドのプロデュースチームはニューヨークを拠点にする日本人たち、そして製作部隊、つまり生産工場は日本にある。彼が「日本」にこだわる理由は、その高い技術力だ。
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文=井土亜梨沙、写真=曽川拓哉

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