パンデミックでも強みを発揮。全米注目、非石油系の物質が地球を浄化

左)ショーン・ハント、右)ゴーラブ・チャクラバーティ

まったく石油を使わず、すべて生物由来の材料から作り出された消毒薬や清掃用品。畑違いの研究者コンビによるビジネスは、業界の勢力図を大きく変えるかもしれない。


ゴーラブ・チャクラバーティ(31)とショーン・ハント(31)は、テキサス州ダラスにあるテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの医学生たちによるポーカーで知り合った。2人を結びつけたのは、チャクラバーティの学位取得論文の実習パートナーで、当時のハントの恋人、現在は妻であるウェンリー・ルアンだ。

「ショーンのポーカーの腕前はひどいものでね」

チャクラバーティはそう語る。負け続けてもハントがポーカーを続けたのは、ルアンに会うため。ほどなく、医師資格と医学博士号の両方を持ち、すい臓がんの治療薬候補を研究していたチャクラバーティと、マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院で化学工学を学んでいたハントは、科学の議論に夢中になっていった。チャクラバーティは、がん細胞の中で過酸化水素水を生成する酵素の研究をしており、それを、従来の化学製造プロセスを向上させるハントの研究に応用できないかと考えた。

6年後の2016年、チャクラバーティとハントは「ソリュージェン」と名付けた新しい事業アイデアでMITのピッチ大会に応募。1万ドル(約100万円)を勝ち取った。そしてこの資金を使って、ホームデポで塩化ビニール管を、イーベイでポンプを購入し、最初の化学反応装置を製作したのだという。

2人はゲノム編集された酵母を培養してチャクラバーティが発見した酵素を生成し、次にその酵素を使って過酸化水素水を製造した。いまやスパの清掃から除菌ウェットティッシュ、石油・天然ガスの採掘で流出する排水の処理に至るあらゆる分野に製品を提供する、ソリュージェンの誕生だ。

19年には、収益は1200万ドルに達した。大部分は、テキサスを拠点とする30社を超えるエネルギー系と工業系の顧客による排水処理製品の利用によるものだ。チャクラバーティとハントは今年、収益は3000万ドルを超えるとみている。

じつは、事業拡大に多額を投じているソリュージェンは、まだ黒字化していない。それでも、4月には3000万ドル、さらに「ファウンダーズ・ファンド」や「べーラー・エクイティ・パートナーズ」その他の投資家から合計6800万ドルを調達。企業価値は2億5000万ドルに達している。

起業当時のチャクラバーティとハントは、まだ博士論文の作成中だった。ドラマの『冒険野郎マクガイバー』さながらに身近な日用品を使った最初の工場の生産規模は、過酸化水素水を1日に5ガロン(約19リットル)作れる程度。排水処理商品の第一号となった「ペロクシーゼン」は、プールや浴槽、スパ向けに売り込んだ。
次ページ > サプライヤー契約を獲得するための「トロイの木馬」

文=アレックス・ナップ 追加取材=クリストファー・ヘルマン 写真=フィル・クライン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事