パンデミックでも強みを発揮。全米注目、非石油系の物質が地球を浄化

左)ショーン・ハント、右)ゴーラブ・チャクラバーティ


排水浄化市場は50億ドル規模ともいわれる。石油や天然ガスの掘削プロセスではミネラル分のスケール(固形物)に汚染された排水が大量に出るため、規制当局はこの排水を浄化し、工業用水や農業用水として再利用するよう義務付けている。また、長い歴史があり、それゆえ大手化学コングロマリットとの競争が避けられない事業分野でもある。

だが、スパ向けの洗浄剤がそうであったように、ソリュージェンの酵素を使用した革新的な排水処理はスケールを蓄積させず、同時に機材の腐食も防ぐ。さらに、しばしばスケール阻害剤として使われるヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)などのリン酸塩とは異なり、環境負荷においてもメリットがある。

同社の排水処理剤を1トン生産する過程で出る二酸化炭素は1.35トン相当だが、HEDPでは3トンも出る。しかも、リン酸塩ベースの洗浄剤が使われた排水はアオコなどの藻類の大量発生を引き起こし、生態系や漁場に害をなすため、米国や欧州連合(EU)はリン酸塩の消費者用洗剤への使用を禁じているのだ。ちなみに、ソリュージェン製品は価格でもリン酸塩と互角の勝負ができる。

ところで、新型コロナウイルスのパンデミックによって多くの製造工場が休業するなか、テキサスにあるソリュージェンの工場は“エッセンシャル(必要不可欠)”と見なされ、操業を続けた。同社の排水浄化製品への需要が急増しているのだ。パンデミックの影響で、排水の浄化が必要ない水圧破砕法(フラッキング)による掘削が減少しているためで、3月以降の需要は少なくとも50%増加。フラッキングが再開されてもこの傾向は続きそうだ。なぜなら、石油の掘削地点では、掘削期間が長くなるほど大量の水が出る傾向にあり、毎年、何十億ガロンもの水が浄化処理を必要としているためだ。

パンデミックの最中、ソリュージェンは手指用消毒液の生産も始めた。自社の過酸化水素水と地元のエタノール製造施設から得たアルコールを合体させたもので、これまでに10万ガロン以上を生産。NPO(非営利団体)の力を借りて、大部分を消毒液不足に見舞われている医療施設に寄付している。年内には100万ガロン以上の手指用消毒液を生産する計画で、商業化の可能性も検討している。

最近は、排水処理製品がソリュージェンの収益の80%前後を占めているが、チャクラバーティとハントはそこに巨大な成長の余地を見出している。そして事業拡大のために「ミニ工場」を建設中だ。これは半径約320キロメートル圏内の顧客のニーズに応える小規模で地域に根差した工場のことで、鉄鋼業界から取り入れた言葉だ。最初のミニ工場は、19年にテキサス州スレイトンに開設し、現在は手指用消毒液専用の工場になっている。

2つ目はヒューストン地域で計画中だ。どちらもエタノール生産工場の近くに位置し、そこから自社のバイオ生産に必要なトウモロコシの廃棄部分を買い取ることができる。
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文=アレックス・ナップ 追加取材=クリストファー・ヘルマン 写真=フィル・クライン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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